「島耕作」作者が説く50代から人生を楽しむ方法 「小欲」は楽しく生きるための"万能薬"となる

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ぼくはそのことを不幸とか淋しいことだとは思わない。

「わが人生」の空疎さに気づかないほうが不幸であって、かつてのサラリーマンには定年後も「○○会社の社長でした」と職歴をひけらかすしか能のない男が大勢いた。

同世代の男に対して、どんな会社のどんなポストまで上り詰めたかを評価のものさしにする男たちというのは、すでに死んだも同然の男たちではなかったか。

ヨーロッパ・ツアーに参加した男の話である。ツアーの中に70になる男性がいた。この人はことあるごとに自分が何々会社の重役であったことをほのめかし、周りの男性(全員リタイア組だが)の元いた会社名や職歴を聞きたがっていたそうだ。ツアーの鼻つまみ者となっていることに、当人は気がつかなかったらしい。

こういうのは、いまや化石の部類だろう。いまのサラリーマンは違う。定年まで勤めることが前提ではなくなったのだから、40代、50代の若さで人生の仕切り直しを余儀なくされている。

そこに、「わが人生」を取り戻すチャンスがあるはずだ。空疎さに気がつくということは、むしろ幸せなことだと思いたい。

小欲を「フワフワと」楽しもう

会社も家庭も「わが人生」ではないとすれば、たちまち気が楽になる。職場での評価に人生を重ね合わせたからつらかったのだ。評価が下がれば人生も下り坂だと思い込んでいた。気にすることなんかなかったのだ。

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あるいは家族への義務感に縛られたからつらかった。豊かな暮らしや安定した暮らしを守るのが自分の役割と思い込んできた。先の見えない不況の時代にあって、重苦しい役割だったが、これも気にしなくていい。

では、「わが人生」をどこに見いだすか。

下り坂だろうが収入が減ろうが、少しも動じることのない世界だ。明日は明日の風が吹くの世界だ。さらに言えば「小欲」の世界だ。

息苦しい土台作りの人生とはおさらばして、小欲をフワフワと楽しめる人が、結局は「わが人生」を楽しみ尽くすことになる。そろそろそういう時期、「小欲」の時代ではないだろうか。

弘兼 憲史 漫画家

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ひろかね けんし

山口県出身。早稲田大学法学部卒。松下電器産業(現パナソニック)勤務を経たのち、1974年に漫画家としてデビュー。現在、『島耕作』シリーズ(講談社)、『黄昏流星群』(小学館)を連載するほか、ラジオのパーソナリティとしても活躍中。

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