「貸付金で借金清算」行政に救われた発達障害男性 コロナ禍でシフトを減らされ、手取り14万円

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ここで緊急小口資金や総合支援資金を活用するよう勧められたのだという。このとき、コロナ禍によりこれらの貸付金の上限額や使用目的は緩和されていた。ナルミさんは担当者の許可を得たうえで、貸付金で民間の借金を“清算”。続いて生活困窮者自立支援制度の相談窓口の紹介を受けた。

ナルミさんは今も継続的にこの窓口などで就労や家計の相談を続けている。ここ半年はアプリを使って家計簿をつけるようになったほか、服薬忘れや遅刻、ケアレスミスを防ぐために腕に巻きるタイプのメモを使うようになったという。

同じ時期にあらためて病院にも通い始めた。そこでWAIS―Ⅳを受け、発達障害の深刻さが客観的な数値からも明らかになった。認知行動療法にも通ってみたし、現在は障害年金の申請を行っているという。

いわゆる「公助」がうまく機能したケースといっていいのではないか。ナルミさんも「利用できる行政サービスや制度があることをもう少し早く知りたかった。望むことがあるとすれば、こうした制度の周知がもっと進めばいいなと思います」と話す。

「言語理解」高い人に見られる共通点

本連載では発達障害と診断された人に出会う機会も多い。1人として同じケースはないが、ナルミさんのように「言語理解」の数値の高い人にはある共通点がある。文章を書くことが抜群にうまいのだ。

ナルミさんも以前、ライター養成講座に通っていたことがあるという。そこでの作品を何点か見せてもらったところ、やはり素晴らしい出来だった。意外なエピソードからの導入や起承転結の構成の鮮やかさといった技術的なことだけでなく、繊細な言葉選びはナルミさんならではのセンスだった。講師陣からの評価も「自分の世界観を持っている」「大きく花開く可能性がある」と高かったという。

ライター業に就きたいと考えたことはあるかと尋ねると、「そんな夢を持ったこともありました。でも、自分で仕事を取ってきたり、コツコツと交渉したりといったことは僕には無理だと思います」という。

ずいぶんと遠回りをしたし、今も何かが劇的に改善したわけではない。とはいえ、凹凸による特性を自覚できたことの収穫は大きいはずだ。私が取材で知り合った人の中にも、独特の感性を生かしながら、副業として執筆の仕事を始めた人もいる。

ナルミさんへのエールとしたい。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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