「論理的思考を絶対視する人」に伝えたい重大盲点 17世紀の医療に学ぶ「因果関係」を調べる重要性

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
イギリスでかつて行われた「武器軟膏」という治療法をめぐる論争について解説します(写真:Sergiy Tryapitsyn/PIXTA)
17世紀のイギリスでは「武器軟膏論争」という奇妙な治療法をめぐる騒動が勃発しました。武器軟膏とは、刃物や武器で負傷した際、傷を負わせた武器や刃物に軟膏を塗ることで、その傷口を治療できるというのです。現代から見るとトンデモ医療といえますが、「合理的」かつ「先進的」な治療法であると見る向きがありました。というのも、武器軟膏の効果が「証明されていた」からです。いったい、どういうことなのでしょうか。ひもとくと、現代にも通じる興味深い事実が浮かび上がります。
※本稿は三崎氏の近著『奇書の世界史』を一部抜粋・再構成したものです

傷を負わせた武器や刃物に軟膏を塗って治療する

例えば料理中に刃物で負傷したとします。そのとき私たちは傷口に薬を塗ったり、絆創膏を巻いたりと、早く治すための処置を行います。

一方、「武器軟膏」(weapon salve)は傷口には塗りません。刃物や武器で負傷した際、傷を負わせた武器や刃物に軟膏を塗ることで、その傷口を治療できるというのです。

17世紀に英訳された魔術の手引書『Archidoxes of Magic』によると、軟膏は人の脂、ミイラ、人の血液、野ざらしの人骨に生えたコケなどから生成すると紹介しています。製法や用途を知れば、迷信や魔術の類にしか思えません。しかし当時、医者をはじめとする知識人たちは、この治療法について大真面目に研究をしていたのです。

17世紀のヨーロッパは科学革命を目前に控え、占星術やカバラなど、これまで「神秘の業」とされてきた理論に、解析的な視点がかけられていた時代です。科学と自然魔術が交錯する過渡期において、「武器軟膏」もまた、その2つの狭間に置かれていました。

次ページ「武器軟膏」を強烈に批判したウィリアム・フォスター
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事