「論理的思考を絶対視する人」に伝えたい重大盲点 17世紀の医療に学ぶ「因果関係」を調べる重要性

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余談ですが、このような因果関係と相関関係の交錯は、「疑似相関」とも呼ばれており、現代に生きるわれわれにも無縁ではありません。疑似相関とは、似通った結果を見せる独立したデータ間に、あたかも因果関係があるかのように錯覚してしまう現象です。一例を挙げると、

・アイスクリームの売り上げが多い年ほど、溺死者が増える
・アメリカ人1人あたりのモッツァレラチーズの消費量が増えると、アメリカの土木工学博士号授与数も増える

といったデータがありえます。前者では、「暑さ」という共通の要因があるだけで、アイスクリームの売り上げと溺死者数の間に直接の因果関係はありません。また後者は、単なる偶然にすぎません。にもかかわらず、「相関している」データと言われると、人間はそこに因果関係を見出そうとしてしまいます。

データから相関関係を見出すのは案外簡単ですが、因果関係を導き出すという作業は手間や時間が圧倒的にかかります。そのため、往々にして人はこの種の交錯に陥るのです。

論理的過程が真実を導き出すとは限らない

さて、「実際に効いた」武器軟膏ですが、時代とともに廃れていきます。16世紀以降のルネサンス期にデモクリトスやエピクロスの文献が発見され、ヨーロッパでは機械論的世界観が広まっていきました。それに押しやられるように、「共感」という非物理的な概念を土台とした治療法である武器軟膏は、地位と効力を失っていったのです。

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武器軟膏論争にまつわる出来事を安直に捉えるならば、論理的(と思われる)過程が必ずしも真実を導き出すとは限らない、という教訓があるかもしれません。

しかし「武器軟膏」は、本当に科学の発展における徒花(あだばな)だったのでしょうか。

結果的に、機械論者らによって効能を否定された「武器軟膏」ですが、こういった「遠隔力」の存在を否定した人々は、その後、ニュートンが発表した「万有引力」に対しても同様の批判を加えています。

彼らの思考のなかにおいて、「接触することなく影響をおよぼし合う力」というものは存在しませんでした。彼らは、星が動くのは「限りなく透明かつ限りなく硬い物質同士が歯車のようにかみ合って星を運行させている」ためと信じていたのです。

その一方で、科学者であり錬金術師でもあるニュートンの発見は、「遠隔力」の存在を認めているがゆえに生まれたものです。

これらを踏まえると、けだし何が進歩の助けになるのかというのは、一概には測れないものだとも言えるでしょう。

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