「論理的思考を絶対視する人」に伝えたい重大盲点 17世紀の医療に学ぶ「因果関係」を調べる重要性

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外交官のケネルム・ディグビーは、イギリス国内で初めて武器軟膏を世間に紹介したとされる人物です。ディグビーは、ペルシャ、インド、中国などを旅してきたカルメル会修道士から治療法を学び、国王ジェイムズ1世に伝えました。

ディグビーは『共感の粉』という論文のなかで、武器軟膏を次のような対照実験にかけたとしています。負傷した兵士を無作為に2つのグループに分け、一方には当時の「一般的な傷薬」を、もう一方には武器軟膏での治療を行いました。その結果、「武器軟膏」で治療を行った兵士のほうが、明らかに傷の治りが早かったのです。

この結果を受け、武器軟膏はイギリスの医師らの間で広まりました。フラッドもこのエビデンスを引用し、あくまで「理性的かつ論理的な」立場として武器軟膏を擁護しています。

一方、フォスターの批判の内容は、魔女のたとえを強引に持ち出すなど、印象操作によって相手を不利にしようという雰囲気が見て取れます。

現代の私たちならば、「武器軟膏なんて効くはずがない」とすぐに見抜けます。ではなぜ、当時は“理性的かつ論理的な手順”で立証したはずの答えが誤りで、“感情的かつ感覚的な批判”が結果的に正しいというような事態になったのでしょうか。

種明かしをすると、先ほど紹介した実験の内容には、因果関係と相関関係の致命的な交錯があったのです。

「一般的な傷薬」は非常に不潔だった

ディグビーの対照実験で用いられた「一般的な傷薬」は、「ワニの糞」や「蝮(マムシ)の油」を主原料とした非常に不潔な代物でした。

つまり、この傷薬で治療を行うよりも、人間の自己治癒力(武器軟膏)に任せたほうが圧倒的にマシだった、というのが実状だったのです。

先ほどの実験の過程で「なんの薬剤も使わない」というグループを用意していれば、真因を特定できたかもしれません。しかし、実験のためとはいえ、傷ついた兵士を放置する仕打ちはできなかったのでしょう。その点で「武器軟膏」は、不潔な薬剤を使わないまま「治療した」という事実だけが得られる方法であり、時代に合った治療法だったのかもしれません。

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