新婚夫婦「6年後の幸福度」追跡でわかった真実 当時想像できなかった、夫婦関係の大変化

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コロナ禍ではランチタイムのインタビューすら彼は難しいだろう。メールでの取材を依頼すると、ほぼ即レスで快諾してくれて、10日後には「幸せです。それがかなり普通でも」というタイトル付きの長文を送ってくれた。抜粋版を以下で紹介する。なお、幸福度は6年前とまったく変わらず100点満点、とのこと。

<今の僕にとって、生きる目的はただ1つ。「家族の安定」だ。仕事のやりがいや社内的な立場などどうでもよい。なるべく早く帰宅して休日出勤はせず、少しでも家族で過ごせる時間を長く持ちたい。給料は下がらなければそれでいい。最近は「早く定年を迎えて退職金を確定させたい」とすら思う。

50歳代も半ばを迎え、あらゆることに疲れ切っているのだと思う。この年齢で仕事や趣味のピークを迎える人もいると思うけれど、僕の場合は「もう終わった」のだ。なので、ゆっくりしたいのである。そんな夫の上昇志向のなさを妻は認めてくれた。「つらいのなら私が稼ぐから仕事辞めてもいいよ」とまで言ってくれた。この嫁さんからの思いやりに応えないわけにはいかない。(中略)

この歳になると旧友との再会でも何かと気を遣うもので、仕事、家庭状況なども当たり障りのない話題に終始することが多い。家族だから何でも許せるというものではないけれど、旅行など心身ともにリラックスしたいときには、家族がいちばん快適に思える。

平凡に静かに毎日を過ごせれば、それでいい。ただし、それを実現するためには経済的な安定は必須だ。「貧しいながらも楽しいわが家」は死語。贅沢によって家族の満足を得ようとは思わないが、経済的な困窮で家族内の関係がギスギスするのだけは避けたい。毎日笑顔で過ごしたい。ただそれだけなのだ。(中略)

家に帰れば小学3年生と1年生の娘が抱きついて迎えてくれる。嫁さんが忙しい仕事を終えて食事を作って待っていてくれる。これ以上何を求めるというのだ。結婚当初との(幸せ度の)比較は100%イコール。増えてもないし、減ってもいない。同じだけ幸せ。そしてずっとずっと同じまま続くことを願ってやまない。>

コミカルな修行僧みたいな風貌の恭一さんを思い出す。家族のことだけを考えていると言いつつ、お願いすればこんな長文(原文はこの倍程度の分量)を書いて送ってくれる人だ。ちょっと自虐的なサービス精神は今後も健在なのだろう。

幸せ度がちょっとだけ下がった山口明子さん

最後に、6年前と比べると幸せ度がちょっとだけ下がったという女性。筆者と同じく愛知県三河地方で暮らしている山口明子さん(仮名、49歳)
だ。今年で結婚11年目。マイペースな趣味人である真一さん(仮名、55歳)との暮らしは「変わらずに落ち着いていて穏やかな生活を送れている」とのこと。将来的な気がかりであるお互いの両親の介護問題も今のところは先送りにできているようだ。では、なぜマイナス5点なのか。理由を聞くと、明子さんはかわいい回答を寄せてくれた。

「恥ずかしながら、外出時に手をつながなくなったことです。少々寂しく感じています。でも、私たちの年齢的には手をつなぐよりも安全のために『腕を組む』べきですかね(笑)。旦那さんとはよくも悪くも『家族』になった気がします」

以上7人の6年後を聞き取って書き記して感じたことがある。晩婚さんは時間を味方につけるのが上手だという点だ。結婚するまでにもさまざまな人生経験をして、「冬来たりなば春遠からじ」を体験している人が多いからなのかもしれない。暗く苦しい状況でもなんとかやり過ごしていればそのうち状況が変化して、また明るい日差しを浴びられるのを知っているのだ。

長い結婚生活。夫婦仲が冷えてしまう局面もあるだろう。それすら乗り越えるためには、パートナーシップ以上に本人のしぶとさのようなものが必要なのだと思った。

本連載に登場してくださる、ご夫婦のうちどちらかが35歳以上で結婚した「晩婚さん」を募集しております。事実婚や同性婚の方も歓迎いたします。お申込みはこちらのフォームよりお願いします。
大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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