厳しい現実「スキルのコモディティ化」に抗う策 「コモディティ化の大先輩」消費財の戦略に学ぶ
このうち、Productは、機能・品質の面から見た商品やサービスの良さです。例えば、ミネラルウォーターの「い・ろ・は・す」であれば、水そのもの成分がもたらす効能と、徹底的に管理された品質がこれにあたるでしょう。工業製品でいうところの「スペック」です。
Propositionは、「命題」「提案」などと訳されますが、「提案の切り口」と考えるとわかりやすいでしょう。「い・ろ・は・す」は環境に優しいボトルが1つの売りで、それゆえに私も愛飲しているのですが、この時私は、水の機能や品質、つまりスペックではなく、「提案の切り口」の良さを買っていると言えます。
Packはその名の通りパッケージの良さです。「い・ろ・は・す」のパッケージは、ネーミングの妙を含め、とても現代的で洗練されています。気になる素敵な異性や同性がいるジムでトレーニング中に飲むのであれば、見たこともない商品の、安っぽいパッケージでは格好がつきません。その点、「い・ろ・は・す」の洗練されたパッケージなら安心です。
人材としての価値にも「提案の切り口」を考える
「マーケティングの6P」では、商品の良さを「機能・品質の良さ」「提案の切り口の良さ」「パッケージの良さ」に分解して考えました。
スペックが明確な人材の価値は、商品で言うと「機能・品質の良さ」に置き換えられるでしょう。多くの消費財や耐久消費財でそれがコモディティ化してしまうなか、マーケターがとった手段は、そこに「提案の切り口の良さ」を付け加えることでした。「環境に優しい」をうたった「い・ろ・は・す」の提案の切り口を思い出してください。
これを人材の価値に置き換えて考えるとどうでしょう。簿記の知識があり英語の読み書きができる、などといった、必要とされるスペックをしっかり身につけることに加えて、「営業の視点で売上も強く意識することができる、オフェンス型の会計の専門家」などという「独自の提案の切り口」を持つのです。
このような「うたい文句」は、仕事に向き合う上での哲学であり、自分自身の人材としてのコンセプトとも言えます。そうしたコンセプトを持つことで、たとえスペック面での人材の価値がコモディティ化してしまっても、他の人から一歩抜きん出ることができます。
そうした独自の切り口、人材としてのコンセプトは、スキル自体が古くなってしまったり、それを自分自身で上書きした場合でも活かし続けることができます。
「営業の視点で売上も強く意識することができる、オフェンス型の会計の専門家」なら、同じコンセプトを保ち、それを強化しながら、事業部の司令塔である「ファイナンスコントローラー」を目指すことができます。さらにステップアップし、財務のプロとして経営の意思決定に参画する「CFO(Chief Finance Officer)」になっても、その独自の切り口は強みになるでしょう。
もちろんこれは、会計の専門家だけにかぎった話ではありません。たとえば以下のような「人材としてのコンセプト」が考えられます。
・「事業担当者並に事業を熟知する、を信条とした」人事担当
・「守りばかりではなく攻めもできる」企業法務
商品のみならず、人材の価値もコモディティ化していく時代です。明確なスペックに落とし込めるスキルは、次第にAIに代替されていくことも考えられます。
そんな時に何より考えなくてはならないのは、周りから必要とされる「自分の人材としてのコンセプト」なのです。
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