一見ムダな仕事がカフェを繁盛店にした理由 無意識に訴えかけるシグナリングの強力な魔力

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しかし、風よけのフェンスの向こうにある、軽くて積み重ねられる椅子は──信用してもいいシグナルだろう。言い換えると、椅子は効果的な宣伝の役目を果たしている。椅子を買う費用と、店の外にそれらを並べて1日の終わりにはまた積み重ねるという日々の労力は、まともな営業をしているカフェだという信頼できるシグナルだ。理性によって意識的に理解されるものではなく、それとなく理解されるシグナルである。

私は30年以上にわたって広告業界で働いてきて、多額の予算を備えた大企業と働くことが多かったが、小規模なビジネスの運命を左右する無意識のシグナリングが持つ力の大きさに今でも魅せられている。それだけではない。いくつかのささいなシグナルを実行すれば、そんな結果にならなかったかもしれない、申し分なく価値があるビジネスの多くが失敗することを思うと怖さも感じる。

従来のような宣伝に費用をかける余裕がないかもしれない比較的小さなビジネスも、心理(サイコ)ロジックの働きにちょっと注意を払うだけで運命を変えられるだろう。そのトリックとは、ビジネスが行われる場でのもっと広い行動システムを理解することだ。

カフェはメニューのデザインを向上させることで売り上げを増やせるだろう。小さな店の多くは照明が不充分なため、通りすがりの人は閉店中なのかと思ってしまう──その結果はどれほどビジネスにとって損失だろうか? 窓がすりガラスのせいで、不必要に客をおじけづかせているパブも多い。入る前に中をのぞけないからだ。

ピザ配達業者はピザと一緒に紅茶やコーヒー、牛乳、そしてトイレットペーパーの配達も引き受ければ、競合が多い市場で差別化を図れるだろう。レストランはテイクアウトの料理を道路脇で受け取れるようにすることで、売り上げを増やせるかもしれない──または、「裏に駐車場あり」という看板を増やすことによって。

効率化や最適化が抱える限界

ありえそうにないことだが、失敗した2軒のカフェのどちらかがビジネスの悩みを解決するために経営コンサルタントに相談したとしても、家具を変えろと提案する者はいなかっただろうと私は思っている。店主はビジネスにおける左脳的な面をすべてカバーするさまざまな提案の長いリストを受け取ったに違いない──価格、在庫コントロール、従業員のレベルといったもののリストだ。

スプレッドシートに載ったものはどれも、効率性を上げるために分析され、数値化され、最適化されたものだろう。しかし、椅子について述べた人はいなかったはずだ。

次ページ通りに置かれた新しい椅子が伝えるもの
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