「ワクチンはいつ届くのか」医療現場の悲痛な声 世界の中でなぜ日本は遅れをとっているのか

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全国民の接種状況(予防接種スケジュール、接種歴、接種済みワクチンなど)を簡単に追跡でき、どの接種会場でも引き出せる。国民は旅先などでも、国内のあらゆる接種会場を選ぶことができ、2回目を1回目と違う会場で受けることもできる。

接種会場は、公営の診療所以外にも、市場や大学、サッカースタジアムに可動式接種センターが設置され、さらに各地にドライブスルー接種所も新設。現在までに、1400カ所以上の予防接種センターが作られた。

日本のワクチン接種管理はどうなる?

かたや日本では、呆れたドタバタ劇がワイドショーを賑わせた。3月28日、小林史明ワクチン担当大臣補佐官が民放番組で、希望するメーカーの新型コロナワクチンを選べる可能性に言及。しかし翌々日、河野太郎行政改革担当相が記者会見で「完全に勇み足だ。撤回しておわびする」とこれを一蹴した。

撤回は当然だ。ワクチンを選べることにしたら、単に現場に混乱を招き、収拾がつかなくなるのは目に見えている。専門知識の十分でない個人に適切な選択ができるかも、甚だ疑問だ。

例えばこの時期、多くの花粉症患者がナビタスクリニックを受診するが、多くの患者さんが「有名人を起用したCMの市販薬を買って飲んだけれど、効果が薄い」などと訴える。日本では、医薬品の広告は薬機法に基づきさまざまな規制が課されているため、消費者も薬をイメージで判断するしかないのだ。

結局、小林補佐官は、接種が進まない現状から国民の目をそらそうとしたのかもしれない。もちろん安直そのものだ。ワクチンが十分に供給され、接種を受けられないことには不安も不満も解消しえない。

100人当たり累計接種回数の上位3カ国は、判断が非常に合理的で、アクションが迅速だった。また、予防接種データの一元管理など、過去の感染症拡大を教訓として有事に耐えうる公衆衛生システムを、デジタルベースで着々と築いてきていた。

日本については、ワクチンの入手は、今からジタバタしてどうなるものでもないだろう。それだけに、納入の遅れを挽回すべく、接種の円滑な推進と、それとセットでの接種記録の管理が重要となる。

残念ながら、厚労省が開発した「ワクチン接種円滑化システム」(V-SYS)は名ばかりで、単なるワクチン配送システムと揶揄されている。肝心な接種記録の管理が組み込まれていないためだ。マイナンバーカードとの紐づけも発表されたが、案の定、頓挫した(筆者はそもそも懐疑的だったので、ナビタスクリニックでは機材導入を見送って正解だった)。

接種の管理は実際、昭和時代と変わらないアナログ方式で、本人任せだ。各自治体から個人に対し紙ベースのクーポンが送付され、接種を受けたかどうかや接種回数も本人しかわからない。

政府は急遽「ワクチン接種記録システム」の開発に乗り出したというが、当面は手入力に頼るしかない。気の遠くなるような作業だ。接種記録が即時にデジタルデータ化され、全国で共有可能にならなければ、ビジネスにおける接種証明発行や転居先での2回目接種等に際し、各地でトラブルが相次ぐだろう。

そもそも政府が主導してゼロからシステムを作ること自体、雲行きの怪しさを感じる。最初から国が1つの技術プラットフォームを提供(強制)し、国全体がうまく回っている例が、平成以降、何かあっただろうか。

ヒントは先に触れた、イスラエルのHMOにあるかもしれない。HMOは実は4つの非営利組織から成る。それぞれのHMOは20年以上にわたって電子医療データを収集してきたが、それらを共有する仕組みとしてHIE(Health Information Exchange)が構築された。政府がやったことは、データ共有と保護にインセンティブを与え、その障壁を取り除くことだった。

日本では「ワクチン接種記録システム」の開発は、大手企業への不信感の表れなのか、ベンチャー企業に託された。だが、接触確認アプリ「COCOA」の長期にわたる不具合のような例もあり、大手だから、ベンチャーだから、と一概には言えない。さてどうなるか。

誰のための、何のためのシステムで、そのために本当に国がすべきは何なのか。そこを見失うと、またいつものように多額の無駄遣いに終わり、この国の迷走は続くと思う。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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