昨年夏からワクチン確保に奔走してきたはずの日本と、決して大国とは言えないイスラエル、UAE、チリの上位3カ国と、何が違っていたのだろうか。それぞれの勝因が知りたくなった。
3月19日付のアメリカ『タイム』誌は、独走状態のイスラエルについて「約900万人の国民の60%近くが新型コロナワクチンを少なくとも1回接種した」と報じている。
当時のイスラエルの累計接種回数は967万回。であれば「少なくとも1回」どころか、60%近くの国民が2回接種を終えているようにも見える(接種を受けていない人々の多くは、民族的・文化的な背景から、ワクチンに対して懐疑的なグループのようだ)。
学術誌『Nature Reviews Immunology』によると、イスラエルでは昨年12月11日、政府当局がファイザー製ワクチンの緊急使用を許可。その9日後には、全国的な接種キャンペーンが始まった。接種対象者を徐々に拡大し、今年2月4日には16歳以上のすべての国民が接種対象となった。
そして早々に、ワクチンの効果が見えてきた。
2月24日付「New England Journal of Medicine」では、イスラエル国内でワクチン接種を受けた約60万人と、年齢、性別、居住環境、抱える疾患数などの背景が一致するワクチン未接種者約60万人とを比較。接種群は未接種群に比べて発症率が94%少なく、重症化率も92%、入院は87%抑えられた。
臨床試験とは条件設定が異なってはいるが、整合する結果が実用後の数字として示されたことは意義深い。
のみならず、接種群では感染(PCR陽性者)も92%抑えられた。加えて3月11日には、ワクチンによって無症状感染も94%抑制されることを、イスラエル保健省とファイザーが発表している。感染予防の効果が確認されたことは、ワクチンによる社会の正常化を後押しする朗報だ。
国民の接種データと引き換えにワクチンを入手
先の『タイム』誌では、イスラエル人口の10%以上がキャンペーン開始から2週間以内に最初の接種を受けたとしている。アメリカでは同じ10%に到達するのに57日、英国では45日かかり、欧州連合はまだそこに達していない。
イスラエルが迅速な接種拡大を成しえた要因としては、人口の都市部への集中などの地理的要素(大規模なワクチン接種所の設置が可能)や、国民皆保険を含む公衆衛生システムの整備などが言われている。
特筆すべきは、保健維持機構(HMO)を通じた国民の健康情報データ管理の徹底ぶりだ。国民皆保険制度によって効率的に吸い上げられた患者データが、デジタル化され、一元管理されている。接種対象者の段階的な拡大に際し、年齢や基礎疾患の有無などが完全に把握されているため、振り分けもスムーズに行われた。
さらに、若く健康で予防接種に興味のない層に対しては、夜間接種センターの開設、事前登録の排除、週末の自然保護区での「ワクチンカート」設置、食事の無償提供などのインセンティブ等、多方向からの施策が功を奏したようだ。
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