さらにUAEでは、シノファームとの合弁事業として、年間2億回の生産能力を持つワクチン工場が建設中だという。ロイターによれば、今年後半には製造を開始する予定だ。
明らかに中国の湾岸地域における外交拡大の一環だが、UAEのワクチン需要と経済多様化という2つのニーズにマッチしており、見事というほかない。
たしかに中国製のワクチンには、有効性に対する不確かな点もある。日本は曲がりなりにも、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの3社と、合計で全国民分を賄えるよう“約束”は取り付けてあるので、中国製ワクチンに飛びつく必要はないだろう。
ただ、接種が遅れることで生じるリスクの大きさを考えたときに、中国製ワクチンでも早く接種したいと考える人は当然いる。日本国内でも実際に一部のお金持ちがアクションを起こして物議を醸した(1月1日毎日新聞「水面下で出回る中国ワクチン 富裕層から永田町へ? 狙われる日本市場」)。mRNAワクチンなどと比べて歴史の長い不活化ワクチンへの安心感もある。
「少し劣るとしても一定の効果が得られるなら、半年も1年もあてもなく待つより、国内未承認でも中国製ワクチンを」という、非常に合理的な判断を下したのだろう。
「手広く誰からでも買う」チリのワクチン外交
さて、上位3カ国のうち最も意外だったのは、南米のチリではないだろうか。
世界通貨基金(IMF)による1人当たり名目GDP(2019年)で見ても、イスラエルは世界21位、UAEは22位と、いずれも27位の日本や、英国(23位)、フランス(26位)よりも上位の経済力だ。一方、チリは世界60位、金額で見ても日本の4割に届かない。
それでも、新型コロナワクチンを潤沢に確保し、イスラエルに次ぐ接種回数(3月27日までに累計965万回)を記録している。約1900万人いる国民の2人に1人が、少なくとも1回接種した計算だ。
興味深いのは、チリの始動の早さだ。再びOur World in Dataのデータに戻ると、統計上に「チリ」の国名が初めて現れるのは、昨年12月24日だ。当時、継続的にデータを公表していたのは、まだアメリカとイスラエルくらいだった。中国や英国、ロシアでも接種は始まっていたが、数字はほぼ非公表だった。
アメリカのオンラインニュースサイトVoxによれば、チリの方針は、「さまざまな種類のワクチンを、できるだけ多くの異なるメーカーから集め、数量を迅速に確保する」というものだ。
実際チリは、mRNAワクチン、不活化ワクチン、ウイルスベクターワクチンなど、異なる技術に基づく多種多様なワクチンを、アメリカ、英国、中国他から、さらにCOVAX(新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組み)を通じ、世界中からいち早く、着々とかき集めていった。
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