もちろん、ワクチンの数量の確保は大前提だ。実はここでもHMOの持つ国民の健康データが切り札となった。
イスラエルは、新型コロナワクチン接種と感染・死亡に関するデータをファイザーおよび世界保健機関(WHO)に提出するのと引き換えに、今年1月、同社からのワクチンの供給契約を取り付けたのである。
野村総合研究所「新型コロナワクチン接種で先行するイスラエル」によれば、提出されたのは、患者数、感染率、人工呼吸器使用数、死亡率、ワクチンの副反応と有効性についてのデータだという(個人情報は含まない)。それにより、ファイザーから1000万回分(週に40万~70万回分)のワクチン供給が約束された。
背景には、ネタニヤフ首相による個人レベルでのワクチンメーカーとの交渉もあるという。だがそれ以上に、イスラエルが自国の強みと弱みを的確に把握し、合理的な判断に基づいて迅速に行動したことが大きいだろう。
「イスラエルは、ウイルスに打ち勝つための世界的なショーケースとして国をアピールすることが、早期にワクチンを確保するための唯一の方法であることに気付いた。イスラエルは、米国やEUなどに、資金と交渉力では勝てないということを認識していた」
「イスラエルは、未承認のワクチンを購入することで発生する費用やリスクは、薬やワクチンの注文遅延で発生する費用やリスクよりもはるかに低いと考え、アメリカFDAが承認する前に、Pfizerワクチンの初出荷分を輸入した」(以上、野村総合研究所)
UAEは「中国開発ワクチン」生産へ
次に、UAEの新型コロナワクチン獲得戦略は、アメリカ『フィナンシャル・タイムズ』誌が詳報している。
それによると、UAEは昨年9月に医療専門家へ接種を開始。同12月には、中国国営企業シノファーム製ワクチンの一般使用を承認した最初の国となった。
UAEではアメリカ・ファイザー製、英アストラゼネカ製、ロシアのスプートニクVも使用されているが、シノファーム製がUAE全土で群を抜いて広く使用されているという。
シノファーム製は、以前から広く用いられてきたインフルエンザワクチンなどと同じ、不活化ワクチン(ウイルスの感染力を失わせて作る製剤)だ。ファイザー製やアメリカ・モデルナ製のmRNAワクチン(ウイルスの目印部分の遺伝子情報を人工合成して作る製剤)と比べ、安価で保管も輸送もしやすい。
UAE国内でも専門家は、研究データの不十分な点や、導入に当たっての不透明性を批判している。昨年12月末のシノファームの発表では、臨床試験の第3相で79%の有効性が示されたとしていた。だが、BBCの報道では、UAE国内での臨床試験(第3相)の中間報告で示された有効性は86%。2つの数字の違いについて、シノファーム側は説明を避けた。
これに対しUAE政府は、2回目接種後に十分な抗体を獲得できなかった人を対象に、3回目の追加投与も開始するなど、臨機応変に対応しているようだ。
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