幼いわが子を全寮制に入れるのは育児放棄か 母子家庭で、育児の目標がわからない

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食べ盛りの息子が、学校の休み時間に公衆電話から電話をかけてきて(「(声を殺して)もしもし奥さん、今日の夕食は何料理? 息子さんの嫌いなものだったら、息子さんを誘拐しますよ」。

それに対し私が「どうぞ連れて行ってください」と“お願い”したのに、決まって「ただいま~」)だった思い出は、かけがえのない楽しい時間でしたし、また私のお料理のレパートリーは、あの子たちが広げてくれたことに気づかされます。

反抗期らしい子のご機嫌が特に悪い日は、小言を言うタイミングも大変でした。また4人が別に暮らす生活が長いのに、たまに他家で見受けるような、情の薄い姉弟関係でないのは、当時のいろんな組み合わせによる激しい姉弟げんかのおかげ?

挙げればキリがありませんが、共に暮らしたからこそ生まれた、親子で成長していったかけがえのない日々が、中学から海外の寮へ入れていたならば、随分、失われていたことでしょう。

全寮制のリスク

どんな教育法にも長所・短所があり、個人の性格や家庭の事情などで全寮制にも利点が多いことは承知していますし、それが成功する事例とそうでない事例がありますが、ここではあえて、反対意見を並べてみます。

まず、どんなにすばらしい先生と友人たちが束になっても、母親の愛情にはかないませんし、あなた以上に一也くんを大事に思い、親身に接してくれるとは考えないほうがいいです。

若者は自分が何者か、何がしたいか、何に対してなら自分の能力を捧げられるか、また自分は誰にとって大切なのか、という自問を通して、アイデンティティを確立していくともいいます(それに失敗すると、極端な思想に走ったりオカルト集団に入ったり、非行や心を病んだりするという説です)。

その説に従いますと、物心がついて数年で、親と離れて海外へ放り出される一也君は、「自分は何者か」を、どのようにして見いだすのでしょうか。家族の誰かが心身どちらかで弱っているときはいたわりあい、楽しいことや喜びを分かち合い、つまらないことでけんかし、同じものを食べておいしい、まずいと言っては明日の食事につながる何でもない日常。

それらが営まれた家族と生家がかけがえのない精神的な支柱となり、育った地域が故郷になり、その歴史や文化を学ぶことで郷土愛につながり、自分のルーツを知ることにつながる。「自分が何者か」は、このような積み重ねのうえで見いだされるのではないでしょうか。

親元にいるからといって自分のアイデンティティが確立されるとは言いませんし、実の親がいなくても周囲から愛情を受けて幸せな人生を送る方もたくさんいらっしゃいます。しかし、家族と一緒に過ごすことで得られる愛情(およびそこに起因する肯定的アイデンティティ)を、寮での生活に求めるのは宝くじに当たるのを期待するくらい、可能性の低いことかもしれません。逆に、自分自身に対する肯定的アイデンティティを形成するのを助けられない状況であれば、よい全寮制(全寮制の学校にもピンキリなため)に入れてあげるのもひとつの選択肢になるとは思います。

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