■塀の外で評価を得て、自信がついた
K君に、4年前に比べていちばん変わった点は何かと聞いてみた。
「それまでは、会社という塀の中にしか視野が及んでいなくて、社内の評価や序列を気にしながら過ごしていた。しかし、その塀の外で自分が評価されることがわかって、自信がついた。それが社内の仕事にも好影響を与えている」と答えてくれた。「枠組み脱出型(Cエリア)」の好例である。
K君の事例からもわかるように、彼は、自分を大きく変えたわけではない。会社という枠組みの中から社外に出ることによって、新たな価値観を見いだしたのである。自分と組織との関係を変えただけだ。それでもコペルニクス的な転換が生じている。
■社外の取り組みが、働かないオジサンにならない秘訣
「施設で寝たきりだった92歳の老女が、ボランティアの美容師に髪をきれいにセットしてもらったのをきっかけに、元気に歩けるようになった」という新聞記事を読んだことが契機となり、会社という枠組みから脱出した人もいる。コンピュータ会社の部長職だったFさんだ。
Fさんは、45歳の支店長時代、3カ月間のリフレッシュ研修を受けた。そのときに、自分がいなくても業績は順調で、組織も回ることを知ってショックを受けた。これからどうしようかと考えていたときに、この新聞記事に出会ったFさんは、美容師を目指した。会社勤めをしながら美容師資格を取得するのは容易ではない。特に実技には苦戦し、通常1年のところを3年かけて習得した。国家試験には2度落ちた。3度目の挑戦は背水の陣の覚悟で、毎朝出勤前に、人形を相手にカットの練習を続けた。結局、資格を取るのに7年かかった。試験を受けていることは会社の仲間にもいっさい言わなかったという。美容師を目指した日々は、とても充実していたとFさんは語っていた。
商社に勤めていたKさんは、海外で働いて気づいたことを人に伝えたいと思い、物書きになろうと決意した。43歳のときだ。通信講座で文章を学び、執筆の環境を得るために、発展途上国での勤務を希望して、現地の支店長も務めた。手当てが比較的多く、書く時間も確保できると思ったからだ。その後、55歳のときに初めての本を出すことができた。本を出すまでの10年を超える準備期間は、そのプロセス自体が楽しかったと彼は語っている。このほかにも、小さい頃からあこがれていた職人を目指し、ものづくりに励む人もいる。
彼らは、自分の目標に向けて頑張っている間、会社での仕事をおろそかにしていただろうか? 私には、そうは思えない。会社とプライベートを明確に切り分けるのは非常に難しく、どちらかが充実していれば、もう片方にも自然といい影響を与えるからだ。
彼らは、社外でやりたいことに取り組む中で、「働かないオジサン」への道を回避している。
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