ハリウッドでは、若さが最大の武器
映画の都ハリウッドでは、「女優の賞味期限は40歳」が定説だった。現在では35歳が分岐点と考えられており、ごく一部のビッグネームを除いて、たとえ実力があっても、アラフォーになると途端にオファーやオーディションが可能な案件が激減し、出演料も下がる。容姿至上主義、見た目がモノを言うハリウッドでは、若さこそが最大の武器になりうるのだ。
背景には、中年女性が主人公の映画は、なかなか成立しないという事情もある。そもそも、ハリウッド映画において女性が主人公の映画は、男性が主人公の映画に比べて圧倒的に数が少ない。最初からキャラクターアクター(性格俳優)として脇役でキャリアを積んだとしても、女優の需要は年齢に比例して少なくなるのだから、苦しい事情は変わらない。
そうした状況下で、TVにおいて中堅女優がアクの強い女性主人公を演じて脚光を浴びるという、一連のトレンドを生み出し、業界の意識改革に貢献したのが、演技派のベテラン、グレン・クローズである。第16回は、クローズがやり手の大物弁護士を怪演するリーガル・サスペンス『ダメージ』を例に、中堅女優がいかにしてハリウッドで生き残りを懸けているかの一例を紹介したいと思う。
Damages Seasons 1-3 on DIRECTV(英語版)
舞台はニューヨーク。新人弁護士エレン・パーソンズ(ローズ・バーン)が、高級マンションから下着にコートを羽織り、血にまみれた姿で現れる。警察に保護されるも、自宅の浴室から惨殺された婚約者が発見されるという衝撃的なシーンで、ドラマは幕を開ける。
なぜ、彼女はそうした状況に陥ってしまったのか? そこから物語は一気に半年前、ロースクールを卒業したばかりのエレンが、大物弁護士パティ・ヒューズの法律事務所に採用されるところまでさかのぼる。以後、冒頭の状況に至るまでの過程を埋めて行く形でドラマは進行する。
軸となるのは、ヒューズ事務所が手掛けている、資産家アーサー・フロビシャー(テッド・ダンソン)に対する巨額の賠償金が絡んだ集団訴訟だ。この重要な案件にエレンが抜擢されるのだが、企業絡みの訴訟の顚末は社会派サスペンスの面も色濃く見応えがある。謎のカギを握るのは、クローズが演じるパティだ。頭脳明晰で正義感も強いが、一方で何を考えているのかわからない、底知れない不気味さを感じさせる。間もなく、パティが目的のためなら手段を選ばない女性だということがわかってくるのだが……。
エレンが事務所に入った時点を現在とするならば、ドラマは冒頭で未来の一端を明かしており(フラッシュフォワードと呼ばれる演出法)、物語は現在から過去、未来と時間軸が交錯して描かれる。まるでパズルの穴を埋めていくかのように構築される複雑なスタイルに、見る側の頭はつねにフル回転!
シーズン1は全13話で、番組はシーズン5で終了したが、冒頭の謎に関してはひとまずシーズン1で答えが出る。シーズン最終回の最後の瞬間まで、ドラマはトリッキーな仕掛けが満載で、うーん、そうだったのか!と、まんまとわなにハマった感覚は、実にスリリングだ。
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