「女優は40歳で用済み」の常識を覆す! 中堅女優のブランドを確立したグレン・クローズ

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先見の明があったクローズ

旧態依然としたハリウッドにおいて、女優は、若いときは「誰かの恋人」、少し年を取れば「誰かの妻」、または「誰かの母親」といったように、基本的には「誰がやっても同じような添え物的な役」の需要が圧倒的に多く、そのことに不満を表明する女優は少なくない。

舞台で確固たる地位を築き、映画女優として実力と人気を共に備えたクローズは、現在に至るまで主役級の役を得てはいるわけだから、恵まれているほうだとは言えるが、それでも不満に思うこと、同時に先見の明や女優としての職業意識の高さもあったのだろう。

ケーブル局の質の高いチャレンジングな作品の台頭に、しっかりと目をつけていたクローズは、2005年に同じFXの人気番組で悪徳警官が主人公の野心的な刑事ドラマ『ザ・シールド ルール無用の警察バッジ』のシーズン4にレギュラー出演した(当時58歳)。史上最強のワル刑事と対を張る女署長役は、こちらもインパクトは絶大で、このときもクローズの出演は話題になった。FXはこうした手順を踏んで、お互いに信頼関係を築き、満を持して『ダメージ』を大々的に世に送り出したのである。

結果、作品は大成功を収めた。

ケーブル局がトレンドを作る時代に突入

TV界の最高の栄誉である2008年のエミー賞では、ドラマ部門の主演女優賞ほか3部門を受賞するという快挙。何より、AMCの『マッドメン』と並び、ベーシックチャンネルのオリジナル番組として、エミー史上初めてドラマシリーズ部門の作品賞にノミネートされたことは業界で大きな注目を集めた。

米国TV界では、2000年代になるとケーブル局のオリジナル番組が台頭し、主要な賞レースにおいて、それまでの地上波一辺倒ではなく、ケーブル局の潤沢な資金で映画並みの秀作を生み出す、プレミアムチャンネル(高い視聴料を払う)のHBOが最多ノミネーション、最多受賞を記録するようになった。

さらに、2008年にベーシックチャンネルから『ダメージ』と『マッドメン』が作品賞にエントリーしたことは、ケーブル局がトレンドを作る時代へ突入したことを強く印象づけるものであった。

事実、これ以降のエミー賞は、あっという間にケーブル局の作品が大勢を占めるようになり、現在に至っている。

ケーブル局における個性的な女性の主人公は、スイーツ好きの女刑事が主人公の『クローザー』、子育てのためにマリファナの栽培をするシングルマザーを描いた『weeds~ママの秘密』が先んじている。

が、『ダメージ』の成功を受けて、より強烈な、ある意味ぶっとんだ女性キャラクターを主人公にした番組が定番となった。

不倫・ヤク中の看護師を描いた『ナース・ジャッキー』、映画『シックス・センス』でオスカー候補になったトニ・コレットが、複数の人格を抱える“平凡な主婦”が、ガラの悪い男性、ティーンエイジャー、貞淑な妻など、入れ替わり立ち代わり巧みに演じる『ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ』、大企業のエグゼクティブから一転、左遷を機に3カ月間のメディテーション(瞑想)を経て、別人に生まれ変わり、周囲を勝手に啓蒙しようとする痛い女をローラ・ダーンが怪演する『Enlightened(原題)』など、いずれ劣らず、これでもか!と女優の個性と熱演が見物のユニークな作品が次々と登場した。

とりわけ映画をメインとして活躍してきた女優が、このようなケーブル局の番組に出演する理由は、番組の質が格段に向上したことに加えて、1シーズンの従来の地上波(22~24話)に比べると12から15話程度と短いため、拘束時間が短くて済むことも挙げられるだろう。映画出演、あるいは育児や家庭との両立が可能になるからだ。

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