「女優は40歳で用済み」の常識を覆す! 中堅女優のブランドを確立したグレン・クローズ

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『危険な情事』より怖いグレン・クローズの怪演

歯ごたえのあるチャレンジングな作風もさることながら、何よりも全米中の視聴者をくぎ付けにし、「怖い!」と評判を呼んだのがクローズの怪演である。

ある年代の読者なら、ご存じの方も多いと思うが、クローズの代表作のひとつに映画『危険な情事』(87年)がある。クローズが演じるのは、主人公と不倫関係にあるアレックス。彼女はやがてストーカーと化し、常軌を逸した行動に出るのだが、何かに取りつかれたようなクローズの演技は今見ても鬼気迫るものがある。以来、アレックスは米国では悪女(映画では男の側にも多分に責任があるが)の代名詞となったわけだが、『ダメージ』の放送開始当時、クローズは「パティはアレックスより怖いのよ」と語っていた。

いやいや、いくらなんでも弁護士役でそれはないでしょうと筆者は思ったものだが、番組を見て大いに納得した。ふつふつと煮えたぎるマグマを内に秘めているかのような、それでいて表向きは氷のように冷え冷えとした印象を与えるパティの非情さには、心底ぞっとさせられる瞬間が多々あるのだった。

映画界とTV界がボーダレスになった象徴

『ダメージ』は、2007~2012年にケーブル局のベーシックチャンネル(基本料金で視聴できる)のFXで放送された。当時、大物女優クローズが連続ドラマで主演を務める最初の作品として、まるで新作映画のそれを思わせるがごとく大々的に行われたプロモーションは、ケーブル局としては異例の規模で業界内外で大きなニュースとなった。

なぜ、これほどまでにクローズが主演を張ることが、とりわけ業界の注目を集めたのか? それは、かつて映画界とTV界の間には、歴然としたヒエラルキーが存在していたことに由来するだろう。

映画スターがTVムービーやミニシリーズ(話数が少ない)などの単発ものに出演することは珍しくなくとも、シリーズもので主役を務めることに都落ち感は否めない時代があった。TVのコメディ『あなたにムチュー』(1992~1999年)で人気を博したヘレン・ハントが、1997年にアカデミー賞を受賞した映画『恋愛小説家』の撮影現場で、相手役のジャック・ニコルソンから「テレビ女優」と徹底して格下扱いされ続けたのは有名な話である。

だが、今では映画スターが積極的にテレビシリーズの主役を張る時代になった。それは本連載の冒頭にあるように、ドラマの質が格段に向上し、映画界とのボーダーレス化が進み、ネームバリューに頼るスターシステムに縛られない、やりがいのある役をテレビでは得るチャンスがあるからだ。

そうしたムーブメントの象徴として、『ダメージ』を位置づけることができるだろう。

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