どのホテルにも滞在中は駐車場(1台)が利用できるので、荷物の運び込みにも困らない。アメニティは到着日のみが多く、室内清掃は週に2~3回といったところ。食事提供やランドリーサービスに違いがあるので、宿泊料以外の料金は追加でかかることになる。
「牛1頭買いの」焼肉店と同じ理屈
最初にこのニュースを見たときに、「あの帝国ホテルが1泊当たり1万2000円で!」という声を聞いたが、そう捉えてはいけない。日割りすることにはまるで意味がない。30日分まとめて払うからこそのこの価格。牛を1頭丸ごと買うから1人分の焼肉代に直すと激安になる焼肉店と同じ理屈だ。
しかも、帝国ホテルのサイトにはちゃんとこう書いてある。「エグゼクティブ層を中心とした"第2の仕事場"としてのご利用のほか、企業規模でのBCP対策や、富裕層のセカンドハウスなどの需要を見込んでいます」。
安いね、と言えるのは毎月の家賃に50万円払っているような人だろう。そうでない人がこのプランを利用するとしたら、日々買うものや使うサービスのグレードも上がってしまう。「36万なんて安いね」的ムードを醸し出す“ホテル暮らサー”コミュニティにふさわしい消費単位が求められるからだ。身に着けるものにも気を使い、ユニクロは許されてもワークマンやしまむらは微妙だろうか、と悩むことになりそうだ。それも含めて「安いね」と言えるかが踏み絵になる。
逆に言えば、ホテル側はこの長期滞在プランを出すことで、高所得の優良顧客たちを効率よく呼び寄せることができる。しかもCMを打たずともネットやテレビがどんどん宣伝してくれるのだ。おかげで売り出し早々に完売となったプランも出ているわけで、してやったりである。
別のメリットもある。客室が埋まり、施設が稼働すればスタッフの雇用確保にも見通しがつく。ビジネス会食や外食需要が激減してしまった館内レストランも、長期滞在の客が増えれば、せめてそのぶんの利用が見込める。
観光庁の発表によると、2020年の日本人国内旅行消費額は前年比で54.9%減、うち宿泊を伴う消費額も54.9%減だという(速報値)。九段下の老舗ホテル・ホテルグランドパレスが「過去に類を見ない経営環境に陥っている」として、6月30日で営業終了すると発表したことは衝撃的だった。名のあるホテルであっても、そこまで厳しい環境に置かれているのがコロナ禍だ。
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