そのイベントは何ともぜいたくなことに、ひとつの場所でたった数日(正確には、数晩)しか開催されない野外レストランで、過去には、佐渡、石垣島、祖谷など、日本のさまざまな土地で行われました。
そして、その特設レストランで腕を奮うのは、日本の料理界で注目の一流シェフたち。食材には、その土地のものを使い、その日のために彼らが編み出したオリジナルメニューを、その日のために設けられた特別な会場でいただく、というものです。
ちなみに、お値段は、開催場所や参加形態(食事のみ、ツアー)により異なるため毎回変わりますが、参考までに6月開催された竹田(大分県)の場合は、食事のみで1人5万円前後。交通費や宿泊費込み(開催場所が地方のため)のツアーの場合、1人10万〜20万円前後です。
それでも口コミで広がるこのイベントは、大きな宣伝をいっさい行わないにもかかわらず、チケットが売り切れる状態です。前述の竹田の場合、webの告知だけで、限定80席のチケットは2週間たらずで完売。せっかく用意したCMを流す必要がなかったそうです。まさに知る人ぞ知る、大人気のイベントです。
豊かな日本を目指して、地方をカッコよく!
いったいこのイベントは、どのようにして始まったのでしょうか。博報堂DYメディアパートナーズの大類 知樹氏にお話をお伺いしたところ、意外にもこんな答えが返ってきました。
「そもそも、ダイニングアウトは、“日本の地方を格好よくしたい”ということから始まりました。世界の観光先進国は、田舎こそ格好いい。都会もあるのだけど、田舎もカッコイイから豊かな行き来ができるのに比べ、日本の観光を考えると、東京と京都が中心。ですから、もっと各地域(地方)を生かして、“日本をかっこよく!”という思いがありました。
それに、地方の人は、どこか自分たちを過小評価している気がします。「私達は田舎者なので……」と。なので、その土地土地にあるすばらしいものを、僕たちが持っているスキルをもっと使って紹介できないかと。ブランディングを行うのが、広告会社の仕事ですから。
僕たちの周りには、シェフのネットワークやレストラン情報に精通している方もいますし、メディアとのネットワークもあります。このダイニングアウトというイベントを通してすべてをつなげ、最終的には長期的に地域を元気づけられればと思っています」
ダイニングアウトが始まって以来、何回かMCを務めた東洋文化研究家のアレックス・カー氏も、このように述べています。
「ダイニングアウトは、画期的な事業だと思います。今まで、日本では自然だとか文化だとか、特に田舎に行くと、文明的でない、地元としては面白くない、という観念があったのですね。
でも、そうじゃなくて、そういうものを引き出して、一層洗練した形で美しく見せるのが地元としても幸せだし、外部の人たちも来てくれて、外部の人たちが来てくれると、今度は活気になって地域再生につながっていく。それが、今後、望ましい発展だと思うんですね。
始めからいろいろな要素があるのですけど、こんなにきれいにまとめて、うまく磨いて、美しく引き出してみせるということはあんまりないんですね、日本の観光では」
つまり、単純に一流シェフを招聘し、ぜいたくなダイニングイベントを行い話題を作って終わり、という発想ではなく、地方に埋もれているその土地のものやストーリーを最大限に生かし、それを紹介する手段として、一流のシェフと特別な場所を用意し、ラグジュアリーな方法で提供する。そして、長期的な視野で地域に貢献することまで考えたブランディングで、ラグジュアリーの特性を活かしたアプローチを行っているのです。
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