東京・谷中のぼろアパートが人気スポットに 壊して建てる時代は終わり! ソフトの力で再生する

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 モノがあふれている社会で、売り手はいかにしてモノを売るか。そして、モノに囲まれている私たち買い手が、モノを買う理由とは何なのか。マザーハウス副社長の山崎大祐が、これからの時代の「モノの買い方、売り方」を考えていく。

 

「自治体などの公共建築で大きいものを作っても、実際には使っている人がいないなんてことがある。もう、無駄なものを作る意味はないのです」

と建築家の宮崎晃吉さんは話します。

今日、取り上げるのは、最近の街歩きブームで大人気のエリア、東京・谷中のシンボル的な存在になりつつある、最小文化複合施設「HAGISO」。カフェやアート、イベント空間をコンパクトに一体化しており、「HAGISO」の代表、宮崎さんはこれを最小文化複合施設と呼んでいます。

「HAGISO」の中、カフェとアート空間で成り立っている

この「HAGISO」、もともとは取り壊されることが決まっていた築60年のぼろアパート「萩荘」でした。しかし、約3年前に、このアパートに住んでいた住人を中心に行ったイベントがきっかけで、このアパートはまったく形を変えて存続することが決まりました。それが「HAGISO」なのです。

コンテンツの力が場所の可能性を引き出した

一般的に建築家は、建物を建てるために設計することはあっても、建物を守るためにイベントを企画したりはしませんが、この宮崎さんの場合は少し異なります。

有名建築事務所に勤めていた宮崎さんにとって、転機になったのは、3年前の震災でした。

「大きな空間を作るのみの建築だけでなく、その建物を誰がどう使うかという中身のことを考えながら過ごしていたため、仕事に疑問を感じざるをえませんでした。そこで、勤めていた建築事務所を飛び出しました。僕らの世代は、建物の作りは立派だけれど中身がなく、生活や文化とまったく関係ない建築物を作ることが多かったのです」

そして時を同じくして、震災が起こったとき、東京の下町ではよく見かけるぼろアパートのひとつだった萩荘も、老朽化のため取り壊しという流れになりました。その場所柄、芸大生が多く住んでいたこともあり、取り壊し前、最後に建物のお葬式をしようということで、建物全体を使って、「ハギエンナーレ」という現代アートのイベントを行ったのです。

その中心メンバーが、宮崎さんでした。取り壊すことが決まっていた建物を使うため、壁をはがしたり、床を抜いたり、大胆なことができたこともあり、結果としてハギエンナーレは大成功し、3週間で1500人が訪れることになったのです。

しかし、この結果を見て気持ちが変わったのが、萩荘の大家さんでした。これだけの人が集まったのを見て、萩荘を何らかの形で再生させようということが決まりました。ハギエンナーレというアートイベントが、萩荘という建物を救うことになったのです。

ハギエンナーレの様子

このように、「HAGISO」のスタートの面白いところは、建築家の宮崎さんが建築ではなく、コンテンツで建物を「作った」というところにあります。そして、宮崎さんは企画から設計、運営を任される代表となり、「HAGISO」が誕生しました。

「建築を、静止したものではなく、ずっと動くもの、人が動くだけで空間が変わるようなものにしたいと思いました。場所固有の現象をいかに作れるか。それが大切だと思っています。一昔前の合理性を追求したモダニズムの反省です。今、ここでしかできないものをいかに作るか。それを突き詰めると、人、そこに誰がいるのかを含めないと、サイトスペシフィック(場所特有のもの)になりませんから」

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