北海道の激ムズ地名「重蘭窮」どうやって読む? アイヌ語の地名は基本的に地形を説明している

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アイヌ語の地名はまた、そこの植生や土地の人たちがその場所をどのように利用していたかを表す場合もありました。9巻86話あたりでアシㇼパ一行が訪れる樺戸は、「ゴールデンカムイ」の中では新撰組副長の土方歳三が収監されていたことになっている監獄のあったところですが、カパト「コウホネ」という植物の名前から来ています。

コウホネにはレンコンのような根があり、これを掘り出して食べたところだと言われています。また、石狩地方に鬼斗牛、釧路に来止臥、十勝に喜登牛というところがありますが、全部読み方は同じでキトウシ。キトというのは、2巻14話にでてきたプクサと同じもので、ギョウジャニンニクという山菜のこと。それが生えているところというのが、ウシの意味です。

人名と地名はつけ方が異なる

ということは、人名と地名はつけ方が全然違うということですね。人名は他人と同じ名前をつけてはいけないというのが原則ですが、地名のほうは同じ地形や同じような環境のところには同じ名前をつけるのが原則です。

早い話が「裏の山」とか「湧き水の出ているところ」というような感じで、土地の人間ならばどこのことを言っているかすぐわかるような言い方で呼んでいるだけなので、もともとは固有名詞とすら言い難いものだったのです。

こんなふうに、もとのアイヌ語がわかれば、そこがどんなところだったのかがすぐわかるのですが、それを探るのを面倒にしているのが、そこに当てられた漢字です。

来止臥(きとうし)もそうですが、昔の「知識人」が自分の教養をひけらかすために、わざと難しい読みの漢字を当てたのではないかという地名がたくさんあります。

石狩に留辺蘂、胆振(いぶり)に累標という場所があって、どちらも私たちには読めやしませんが、ルベシベと読みます。ル「道」ペㇱ「沿って下る」ぺ「もの=川」の意味で、峠を越える道に沿って流れる川を指します。

漢字を見ると恐ろしげですが、アイヌ語自体で言えばなんということはない普通の名前です。難読漢字の代表としてときどきテレビのクイズ番組にも出るのが、釧路の重蘭窮。知らないかぎり絶対に読めない地名ナンバーワンで、これでチプランケウシと読みます。

チㇷ゚「舟」のㇷ゚は日本語話者には聞こえないような音なので、それをチウのように聞いて重の字を当て、ランには蘭を当てたのだと思いますが、残りのケウシになぜ窮という字を当てたのかは不明です。一方、アイヌ語の解釈は明瞭で、ランケは「下ろす」、ウシは「いつもするところ」で、チㇷ゚・ランケ・ウシは「いつも舟を下ろすところ」。山で作った丸木舟を海に下ろすところという意味でしょう。

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