北海道の激ムズ地名「重蘭窮」どうやって読む? アイヌ語の地名は基本的に地形を説明している

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

東北地方の北部を強調しましたが、アイヌ語地名はそこにしかないということではありません。ただ、それより南に行くと、それらしい地名の数ががくっと減るので、本当にアイヌ語地名かどうか確かめるのが難しくなるということなのです。山田さん自身は新潟県に特徴的な「五十嵐(いがらし)」という地名について、アイヌ語かもしれないと言っています(註2)。

山田さんは新潟県内の3カ所の「五十嵐」「五十辺(いがらべ)」を実地検分して、インカルシにふさわしいところを見つけてきました。北海道のインカルシという地名は、インカㇻ「見る」ウシ「いつもするところ」という意味。

地名をなくすことは歴史を消すこと

『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

小高い丘の上にあって眺望がきくところにつけられていて、そこで敵の軍勢とか魚の到来を見張ったところだと言われ、北海道北見の遠軽(えんがる)の語源もこれだとされています。

そうです。何か遠くのほうからやってくるかもしれないものを「見る」ところということで、インカㇻマッのインカㇻと同じ言葉です。そんな言葉が新潟県の丘の上に、さりげなくつけられていたのかもしれないのです。

近年、アイヌ語地名の復権が強く叫ばれるようになってきましたが、地名はそこに住んでいた人たちの存在の証であり、地名をなくすことはその人たちの歴史を消すことです。ひいては人々の心の中からアイヌという存在を消し去ることにつながります。そういった意味で、アイヌ語地名についての関心がもっと高まるように努力したいと思います。

(参考文献)

注1:山田秀三『東北・アイヌ語地名の研究』草風館(1993年)

注2:山田秀三「インカラ(眺める)地名物語」『東北・アイヌ語地名の研究』草風館(1993年)

中川 裕 千葉大学文学部教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

なかがわ ひろし / Hiroshi Nakagawa

1955年横浜市生まれ。1978年東京大学文学部卒業。1984年東京大学人文科学研究科博士課程中退。専門は言語学、アイヌ語学、アイヌ口承文芸学。1995年第23回金田一京助博士記念賞受賞。2018年「アイヌ語復興への寄与」などにより、文化庁50周年記念表彰授与。週刊『ヤングジャンプ』誌掲載の野田サトル氏の漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者。著書として『アイヌ語をフィールドワークする』(大修館書店)、『アイヌ語千歳方言辞典』(草風館)、『アイヌの物語世界』(平凡社ライブラリー)、『語り合うことばの力』(岩波書店)、『アイヌ語のむこうに広がる世界』(SURE)、など多数。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事