20時以降の都内を見て回ると、すぐにある状況に気づく。それは空車マークのまま、顧客を求めて街をさまようかのように走るタクシーの数が異常に多いということだ。決して大げさではなく、走っている車の大半がタクシーで占められているのだ。昨年4月に発出された緊急事態宣言時よりも明らかに街の人出は多いが、ドライバーへの恩恵にはつながっていない。
新宿の靖国通りで20年以上営業を続けてきたベテランドライバーの言葉が、タクシー業界にとっての深刻さを端的に表していると感じる。
「今回の緊急事態宣言発出は、前回よりもタクシー業界に与えるダメージが大きい。前回は早い段階で各社が台数制限をかけましたが、今回はなかなか制限がかからずに顧客のパイに対して車が多すぎました。
本来は昼より夜に稼げるのがタクシーの仕事。それが今は完全な逆転現象が起きていて、隔勤(約1日勤務)から日勤に変更してほしい、と申し出るドライバーも増えてくるまでの事態になった。こんな状況になっても、なぜ乗務員は協力金や給付金が貰えないんでしょうか」
昨年5月以降は回復傾向にあった
2度目の緊急事態宣言が発出されたのが、1月7日のこと。昨年の5月に一度目の緊急事態宣言が解除されてから、実はタクシー業界では少しずつ回復の兆しを見せていた。
複数のタクシー会社幹部に話を聞くと、「夏ごろから回復傾向を見せ始め、10、11月には昨年対比で8割くらいまで戻るようになった」と言う。現場のドライバーからは変わらず厳しいとの声が相次ぐが、会社規模で見ると業績は上向きかけていたというのが実際のところだろう。
東京のタクシー業界では、大手4社(日本交通、国際自動車、帝都自動車交通、大和自動車交通)のドライバーが受ける恩恵は小さくない。顧客の利便性が高い大手4社共通のタクシーチケットがある、契約するオフィスビルへの付け待ちが認められる、マスコミとのハイヤー契約があるなど、いい顧客に恵まれる間口が広がるからだ。そういった利点もあり、通常の12月は台数当たりの売り上げが平均6万円を優に超えてくる。
ところが、昨年12月上旬に筆者がある大手タクシー会社の営業所を訪れた際、張り出されていた前日の売り上げ一覧を見ると、図ったかのように4万円台前半で並んでいた。そして、12月後半には感染者の増加に伴い、さらに売り上げは落ちていったという。
そのときに取材したドライバーに、1月に入って連絡を取ると、苦しい営業事情を話してくれた。
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