組織の中では、全員が同じ現実を共有して、時間や空間も均一だという前提なので、「他人との比較、違い」でしか自分の位置づけを確認できなくなりがちだ。しかし、これでは自らの個性を見失いがちになる。
本当に大切なのは、過去の自分に比べてどれだけ成長できたのか、どれだけ思いやることのできる人間になれたかである。また、未来の自分を描くことによってエネルギーを得ることもあるだろう。過去と未来の自分を、しっかりと自らの中に抱え込むことで、自分は他人とは取り替えの利かない存在であること、かけがえのない存在であることが確認できるのである。
3.挫折に正面から向き合えるか
入社から30年もすれば、いろいろなことが生じる。いいこともあれば、「なんで自分だけがこうなるのか」「あのことさえなかったら」と、どうにもできない不条理に納得のいかないこともあるだろう。
私は、人生の後半戦において、新たな働き方を見いだした多くの会社員を取材してきた。彼らの多くは、会社員人生から見れば「挫折」と思えるようなことを経験して、そこからイキイキとした働き方を見つけ出していた。
取材では、病気を経験している人が多いことに驚いた。また、リストラ、合併、左遷、思いもよらない出向などの会社側の事情によって大きく揺れる人、子どもの不登校、家族の介護、妻の病、家庭内暴力をきっかけに働き方を変えた人もいた。友人や家族の死、阪神・淡路大震災がきっかけとなった人も多いのである。
おそらく重い病気を患うと、気持ちの中で「死」と直面するので、無意識のレベルに押し込んでいた死に対する恐怖心が、意識レベルに上がってくるのだろう。その体験が、意識を変化させることにつながっている。阪神・淡路大震災の体験が転身のきっかけになった人が多かったのも、同じ理由であろう。
後半の通過儀礼をうまく突破した人の多くは、こういった挫折に正面から向き合うことで、「自己中心から、他者へのまなざし」「自己への執着から、他者への関心へ」という価値観の転換を果たしていた。そうすると、「あのことさえなかったら」と言っていた人が、「病気のおかげで」「会社がもっと早く破綻してくれればよかった」と発言が変化するのである。
会社員生活で、一度も挫折を経験しない人は、むしろまれである。いつか訪れる挫折に対して、心構えをしておくことで、働かないオジサンになるリスクを格段に減らすことができる。
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