私が6年前に本社を大阪から淡路島へ移した訳 創業93年の老舗メーカーが採った大胆な改革
狩野:社員を混ぜ合わせてみて、会社はどう変化しましたか。
古市:以前は社員同士、顔や名前も知らないことが多かったのですが、いろんな人とコミュニケーションがとれるようになったことで、いきいきと能力を発揮できるようになりました。
狩野:苦戦していた採用活動は?
古市:当社で働きたいという人が増えたと実感しています。今までは採用活動に数千万円を投じてきましたが、相対的にかなり削減できました。淡路島への移転前に50%だった入社5年以内の離職率も17%に減っています。
三神:大手企業の場合、新卒1人当たりの採用コストに1000万円を要するとも言われます。それでも入社3年で3割程度が辞めているのが実態です。中小企業は大手のようにお金もかけられず、優秀な人材を確保するのに苦労されるケースが多い。ところが、プライミクスは淡路島への移転という仕掛けによって、自ら宣伝をしなくても入社したい人からアプローチが来るようになった。
古市:私たちの取り組みがメディアで報じられたのを見て、当社で働きたいと電話してきた人もいます。その方は、いま実際に当社で働いています。
狩野:地方移転をしてみてわかった重要なポイントは?
古市:本社そのものを移転し、しっかりとそこで企業体をつくり、地方にも税金を納めることです。当社は近隣住民の方や淡路島島内の企業の方ともコミュニケーションをよく取って、自分たちができることをつねに考えています。地産地消の取り組みや地元の雇用をどんどん増やしており、いまプライミクス社員の約3分の1が淡路島島内の出身者です。
「遊びの中に仕事がある」職場を実現
三神:昔ながらの職人気質の会社の風潮から提案型――ものづくりにコトづくりも加える――に脱皮するには、社員は創造性や感性を高める必要があります。これはどのような職場環境をつくれば実現できると考えますか?
古市:「遊びの中に仕事がある」という職場を実現したいと考えました。そのため会社から徒歩3分のところに社員寮を設置し、大浴場やミストサウナ、食堂、カラオケルーム、ビリヤード場などをつくりました。朝、出勤前に釣りに行ってから出社する者もいます。
三神:トータルで心身のバランスに働きかけていますね。
古市:人生100歳時代です。60数歳で定年退職した後も、残りの人生は40年ぐらいあります。社員には「ずっと仕事ばかりしていたから定年後に何をしたらいいのかわからない」ではなく、うちの会社にいる間にいろんな趣味を培い、定年後も人生を満喫してもらいたいと考えています。
三神:「健康経営」が中小企業にも近く義務化されますが、単なる医療費削減の切り口で捉えられています。企業の創造性と人生の満喫を両立させる、戦略の根幹としての健康経営を実践されているといえそうですね。
(構成:二宮 未央/ライター、コラムニスト)
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