この日本橋の現場では、抜いた松杭の代わりに現代的な杭を打って基礎を補強してから、残す部分以外を解体し、新しい建物の建設を始めた。
新しい建物は、古い建物に載ってはいない。しかし、ふたつが完全に独立しているかというと、そうではない。古い建物が残る5階から下は各フロアとも、連続的に機能する。根本さんによると、「古い建物へは、新しい建物の鉛直荷重はかからないけれど、水平荷重はかかる」設計になっている。それを実現している秘策が、屋上にあるというので、まずはそれを見せていただく。
「では、参りましょう」、ということで屋上に出てみる。18階の上。階段か。覚悟を決めたら、「エレベーターがありますので」とのこと。ビルの建設現場見学は、竣工間近の時期に限る。
屋上からの景色は格別
17階でエレベーターを降り、階段で上がって屋上だ。
「ヤバい!」うっかり若者言葉で叫んでしまった。何がヤバいかって、その眺めである。こちらにスカイツリー、あちらに東京タワー、丸の内のビル群も見える。西側をみると東洋経済のビルもはっきりとみえる。
地上90メートルは、それほど高いとは言えない。なのになぜか、ほかのビルの上層階から眺める景色と違う。開放感が桁違いなのだ。
そうだ、と気がついた。立地のせいだ。ここは東京都中央区日本橋一丁目、首都高速の江戸橋ジャンクションのすぐ西である。日本橋川と道路に囲まれているため、隣の建物と距離があり、それが独特の抜け感を生んでいる。
独特なのは景色だけではなかった。足元には大きなトラスが組まれている。このトラスが、古い建物に垂直方向の荷重がかからないよう、新しい建物の12階から上の部分を自ら吊り上げ、その荷重を新しい建物だけで引き受けているのだという。同様のトラスは7階にも設置されていて、そこは7階から11階までを吊っている。新旧建物の共存のための構造だ。
ちなみに、旧建物の屋上に設置されていた船橋風の塔、その名も船橋状塔屋も軽量化を図った上で残されるのだが、これも古い建物の上に載せるのではなく、古い建物の上に載っているように見えるよう、新しい建物で支えることになっている。
それにしても、この眺望。この屋上からなら、隅田川の花火も東京湾の花火も、存分に楽しめるだろう。ただ、残念ながら、建物が完成したら屋上は立入禁止だそうだ。ビルは8階から上がオフィスフロア、7階が機械室、6階と3階、2階が三菱倉庫の事務所で、5階、4階と1階の一部が、やはり三菱倉庫のトランクルームとなる。
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