「社会人野球でも戦力外」元プロが挑む意外な道 3度の戦力外通告を受けた矢地健人の今

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プロ引退後は社会人野球で再スタートを切った矢地だが、実はその1年目、思わぬ試合でリズムを崩していた。社会人野球の最も大きな大会である「都市対抗」の東海地区2次予選。東海REXは初戦でクラブチームの「奥伊勢クラブ」と当たり、矢地は7回表からマウンドに上がった。

東海REXでは1年目でリズムを崩してしまっていた(写真:TBSテレビ)

試合は32-1で東海REXがリードしていた。野球の試合とは思えぬ大差だ。これには理由があり、都市対抗予選には、野球部をもつ企業だけでなく、クラブチームもエントリーする。

クラブチームは、企業チームとは形態が大きく異なり、会社からの手厚いサポートはない。それ以前に、母体会社そのものがないことも多い。エリート選手も皆無だ。そのため、戦力的には企業チームが圧倒的優位で、東海REXと奥伊勢クラブの一戦も大きく差が開いていた。

ところが、31点リードした相手に対し、前年までプロのユニフォームを着ていた矢地が2点取られる。都市対抗予選の雰囲気を味わうための調整登板の意味合いはあった。けれども、決してクラブチームを見下したり、大差で手を抜いたりしたわけではない。むしろ矢地は「全力でした」と言う。

「結局は、僕のメンタルの弱さです。サードゴロの送球が少し逸れて一塁が際どいタイミングになり、セーフと判定されて。それで『えっ』と思ってしまったんです。そこから、力みに力み倒して(2点を取られる)という……。この点差なのに何やってるんだと今は思いますけど」

主戦力になれなかった結果を受け止める

一度崩れたリズムはなかなか戻らない。続く試合でも精彩を欠いた。記録を見ると、守備陣の失策が失点に結びついたケースもある。肩やヒジが常にベストコンディションなら苦労はないが、そうもいかない。しかし、本人はそれらを言い訳にしない。主戦力になれなかった結果を受け止める。

「社会人2年目にチームは都市対抗予選を勝ち抜き、7月に東京ドームで行われた本戦でベスト8に入りましたが、僕の登板機会は巡ってこず、潮時かなと……。それでも、初動負荷トレーニングを取り入れて球速は150キロ近くまで戻り、まだいけるんじゃないかという思いもありました。プロで戦力外になったときと同じような雰囲気、気持ちになっていました」

必死にもがき、諦めたくない思いとは裏腹に、忍び寄る現実に薄々気づかされてもいた。社会人野球でプレーする中で、周囲からの“元プロ”という視線は感じていたのだろうか。

「かなりそれは感じましたし、自分も意識しすぎていたのかもしれません。プレッシャーもあったと思います。ストレートの威力が戻ってきたこともあり、知らないうちにプライドが邪魔したのか、最後の最後で力勝負に頼ってしまい、打たれました。力だけではだめだと、もっと早く気づいていたらよかったです」

矢地の最大の魅力は、サイドスローから勢いよく走る150キロ近いストレートだ。武器を前面に出すこと自体は決して間違いではない。抑えてチームに貢献した試合もある。主にリリーフとして公式戦の4割ほどに登板した。しかし、投手としていろいろな引き出しを機能させていたら、もっと活躍できていたはずだ。今はそう客観視している。

「もうちょっと社会人でやれるかな、と自信もあったので、悔しかったです。元プロだから、というわけではありません。プロの2軍時代、社会人チームと交流試合をしたときには抑えていたので、まだ自分の力が通用すると思っていました」

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