「社会人野球でも戦力外」元プロが挑む意外な道 3度の戦力外通告を受けた矢地健人の今

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結婚式を無職では迎えられない――。当時、TBSテレビ『プロ野球戦力外通告~クビを宣告された男たち』では、そんなナレーションのもと、矢地がトライアウトに挑む姿を放送した。トライアウトでの投球が目にとまり、新日鐵住金東海REXの採用が決まった。結婚式の1カ月ほど前だった。

今も家族の温かさに支えられて、仕事に取り組んでいる(写真:TBSテレビ)

「こんな人と結婚したのか、と思われてしまったら嫁さんに申し訳ない。結婚式までには(次の道を)決めたかった、という思いもありました。プロ野球界へのこだわり? ないわけではありませんでしたが、声がかからないとできない世界ですし。それに、家族あっての僕でもあるので」

プレーヤー引退後の現在、矢地の勤務はシフト制だ。夜勤もある。妻や子どもたちの生活サイクルと合わない日もあるが、土日が休みなら家族との時間にあてる。夜遅くまで仕事した翌朝もなるべく早く起き、朝ごはんを一緒にとる。保育園へも送っていく。

「長男は今6歳になり、下の子は4歳になりました。夜寝るとき、2人が僕の布団に入ってきて、両横でくっついて寝てくれることが本当にうれしい。妻と4人で一緒にごはんを食べているときが、自分にとって最も大切な時間です。男の子2人なので普段はうるさいし、玄関は彼らの足のニオイでくさい気がしますが(笑)、それが幸せなのかなと思います」

己の右腕一本で戦った男がつかんだ幸せ

数々の試練を経てたどりついた今の環境。特に矢地の場合は、プロ野球選手といえど、華やかなイメージのそれとは事情が違った。

ドラフト指名は1段階低い「育成選手」としての指名で契約金がなく、わずかな支度金が出る程度。這い上がって1軍マウンドに立ったが、レギュラー争いを勝ち抜けず、年俸も多くはなかった。明日の保障なきプロの世界で、己の右腕一本で戦い、ときにファンを沸かせた矢地が、たしかな幸せをつかんでいる。

一方で矢地は今、ビジネスマンとしての領域だけにとどまろうとはしていない。生活の基盤を築いたうえで、急速に世界を広げている。

きっかけは2年ほど前だ。高岡一高や中日の先輩で、親交ある高橋聡文(元中日~阪神)に電話したときのことだ。

「聡文さんと電話で何気ない話をする中で、僕の近況の話にもなりました。その中で聡文さんから『それだけで人生楽しいか?』みたいなことを言われて、それが僕の心に響いたんです」

先輩のアドバイスに背中を押され、2019年、ユーチューブにチャンネルを開設した。プロ時代の裏話だけでなく、外野席から中日戦を観戦したり、ファンの交流会に潜入したりもした。プロ引退直後の高橋が友情出演する回もある。

「その当時はまだ、元プロ野球選手のユーチューバーは少なかったと記憶しています。高木豊さん(元大洋ほか)など数人でした。編集も自分でやるので、最初は特に時間がかかりました。仕事から帰ってきて子どもの世話をして、そのあとに取りかかっていました」

次ページ配信サイト「ふわっち」に舞台を移した
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