「社会人野球でも戦力外」元プロが挑む意外な道 3度の戦力外通告を受けた矢地健人の今
チームの戦力になれなかった
「来年は、上がろうか」
3年前の秋。監督室で、矢地健人はそう告げられた。それは矢地にとって人生3度目の戦力外通告だった。“上がる”とは、現役引退を意味する。
「戦力となれず、申し訳ありませんでした」
頭を下げ、監督室をあとにした。
矢地はプロ野球で6年間、投手としてプレーした。最初の戦力外通告は2014年の秋だった。5年間で17試合に登板した中日から言い渡された。合同トライアウトでロッテから声がかかり、翌2015年は1軍マウンドに10試合立ったが、その年の秋、またも戦力外通告を受けた。これを最後に華やかな舞台から去ることになる。
プロ野球選手としてのキャリアには終止符を打たれたが、野球人としては続きがあった。ロッテを解雇された直後の合同トライアウトがきっかけで、社会人野球の新日鐵住金東海REX(現・日本製鉄東海REX)に2016年から採用されたのだ。
しかし、アマチュアでのプレーは2年で幕を閉じた。主要試合でマウンドを任されず、2017年秋に現役引退を勧告された。これこそが冒頭の“3度目の戦力外通告”だ。矢地は当時29歳。チームの投手陣では最年長だったし、社会人選手はこれぐらいの年齢で引退することが多いから、ごく一般的なケースではある。ただ、矢地にとっては悔いが残った。
「チームの戦力になれず、本当に申し訳ない思いでした。自分が野球をできなくなることよりも、その気持ちしか出てこなかったです。自分は拾ってもらった身。採用してくださった監督の顔に泥を塗ることになってしまい、つらかったです」