「社会人野球でも戦力外」元プロが挑む意外な道 3度の戦力外通告を受けた矢地健人の今
ユーチューブで元プロ野球選手の配信が増えてからは、配信サイト『ふわっち』に舞台を移した。あえて未開拓の地を選んだ。
「知名度のある人が集うところに僕がいても、あまり意味がないと思って。少しでも人と違ったことをしていきたい。もしも将来、何かのときに『矢地おったな』と思い出してもらえていたら、自分にもメリットになるんじゃないかと考えました」
今年の暮れに放送されるTBSテレビ『SASUKE』への出演も、『ふわっち』がきっかけで実現したという。番組ホームページの紹介では「元プロ野球選手」と並び「ふわっちライバー」の肩書がある。
「昨年出場した岡田さん(幸文/元ロッテ)の記録はまず超えたいと思っています。トレーニングで4キロ、体が絞れました。想像よりも早く現役時代の体に戻っています。放送を楽しみにしていてください」
構想はさらに広がる。ネットワークも生かしながら、いつかは服飾関係のジャンルにも関わってみたいと描く。
「まずは自分自身が楽しんでこそ、だと思います。それも(高橋)聡文さんに言われたことなんです。休みの日にだらだらしているだけではもったいない。それなら今頑張っていきたい、という思いです。仕事や家庭をメインにしながらも、プラスアルファでどんどん広げていきたいです」
同時並行で広がる「第3の世界」
職業欄に記す身分は会社員でも、ライバー活動のクオリティは趣味の域にとどまらない。「会社員」と「矢地健人」の二刀流だ。1つの道に専心するのも立派だが、一方で多様な世界での活躍もその人の評価を高める。
会社の規程上、事務所などへの所属はできないが、メディアやSNSでの活動は一人で十分。先日、中日の大先輩・鈴木孝政氏のラジオ番組に出演したときは、たまたま上司がカーラジオで聴いていて喜んでくれたそうだ。
今回の取材の日は偶然にも、今年のトライアウトの実施日だった。数年前の自身を思い出す。
「トライアウトでは2度とも、前夜は眠れませんでした。目を瞑ってても『寝れんな……』と。自分では緊張しているつもりはなくても、人生で5本の指に入る緊張度合いだったと思います。
特に最初のトライアウトでは、自分の順番がまわってくる直前にトイレに駆け込みました。飲んだものが逆流してくるような感覚は初めてでした。マウンドに上がってしまえばいつも通りで、周囲に気を取られることはありませんが、それまでは幽体離脱のような、ふわっとした感覚でした」
こんな経験、われわれがしようと思ってもできるものではない。育成選手から不屈のハートで居場所をつかんできた男は、地に足をつけて第2の道を歩みながら、同時並行で「矢地健人」としての魅力を発し、第3の世界も充実させていく。
(文中敬称略、文:尾関雄一朗)
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