2つ目は登場人物にあります。1人ひとりが説明要らずのステレオタイプで、なおかつ複雑な関係性は一切なし。さらにキャラクターに沿ったぴったりの配役がわかりやすさを増します。
主人公のベスに起用された女優アニャ・テイラー=ジョイは一匹狼の勝負師役がこれ以上ないくらいお似合い。チェスを指すシーンの画面いっぱいに映し出される凄みのある目力だけで、いい演技を見させてもらったと満足できます。
幼少期のベスを演じたアイラ・ジョンストンも天才少女の性質を言葉少なげに表現する演技が光っています。
周辺人物の重要な役どころでは、ベスの才能を見抜き、ベスの人生を変える孤児院の用務員・シャイベルをアメリカベテラン俳優のビル・キャンプ(映画『ジョーカー』の刑事役)が演じ、父親的存在感で最後の最後まで安心できるいい人役です。
ベスと母娘関係を紡いでいく養母・アルマはアメリカ監督で女優のマリエル・ヘラー(監督代表作は『ある女流作家の罪と罰』)が演じています。主人公を取り巻くとくに女性の人物にテンプレが多いなかで唯一、深みのある役柄。ビール好きのアルコール依存症という設定が、ベスが抱える依存症とシンクロし、互いに影響し合いながら欠けていたものを取り戻していきます。
日本で広く知られている役者は『ハリー・ポッター』シリーズのダドリー役を演じたハリー・メリングでしょうか。やせてすっかり大人になり、ベスと勝負するチェスプレーヤー役で登場します。後にベスとの関わりが深くなり、後半戦のキーパーソンのひとりでもあります。
チェスのルールがわからなくても問題なし
最後の3つ目は映像で引き込ませる表現力にあります。チェスのシーンであふれているのにもかかわらず、たとえチェスのルールがわからなくてもまったく気にならないのです。それは心理描写にフォーカスし、その描写の1つひとつを計算ずくのカット割りでわからせることができているからだと思います。
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