人間と同じ?「働きアリは早死にする」衝撃事実 アリの社会でも経済学の理論が見出せる

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――アリの集団の中で起きている興味深い事例があるそうですね。

2013年に「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」(オンライン版)に掲載された論文にまとめました。その内容は「働かないアリは働きアリよりも長生き」というものです。

つじ・かずき 1962年愛知県生まれ。1989年に名古屋大学院博士課程を修了。日本学術振興会特別研究員、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団研究員、富山大助手、琉球大助教授を経て、2005年から琉球大教授。2019年から日本動物行動学会会長を務める(写真:当銘寿夫)

アミメアリを使って実験したところ、働きアリの労働に「ただ乗り」して、労働せずに産卵ばかりするアリが交じっていることを発見しました。

観察していると、働きアリは働かないアリの分まで労働するため早死にする。働かないアリは多くの子を産みますが、産まれてきたアリも遺伝的に働かないので、働かないアリのコロニーは次世代の個体を残せなくなるんです。

行動経済学で言われてきた「力を合わせれば大きな成果が得られるが、他者の働きに期待して怠ける者がいれば協力が成り立たなくなる」という「公共財ゲーム」のジレンマを、アリ社会の中にも見出せました。

裏切り者がいないかを監視し、厳しく罰する

ほかにも「裏切り者がいないか監視し、見つけたら厳しく罰する」という習性も見つかっています。一般に、幼虫を育てたり、エサを捕ったりするのが働きアリの仕事で、産卵を担当するのは女王アリです。こうした役割分担を守らずに、産卵する働きアリもいます。

アリ社会では「産卵=働かないこと」を意味するので、産卵する働きアリが出現すると、他の働きアリが産卵を妨害したり、卵を破壊したりします。どうです? 人間社会を彷彿とさせるでしょう?

しかも、その「取り締まり」の度合いが集団の成熟度によって異なるということも突き止めました。働きアリの数が100匹未満の若い集団の場合、ほとんどの卵が壊されます。

ところが200匹以上の成熟した集団になると、破壊された卵は20%程度でした。つまり集団がまだ非力な時には規律が優先され「強い取り締まり」が働きますが、集団が成長すると「取り締まり」が緩んで働きアリの利己的行動もそこそこ許容されるのです。

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