「ブレイクスルー」。その瞬間をどれだけ経験することができるのか。ビジネスでも、スポーツでも“壁”を突破することで、新たな世界に踏み込むことができる。6月6~8日に開催される陸上競技の日本選手権で「大きな壁」が崩壊するかもしれない。それは100m「10秒00」という壁だ。
伊東浩司が10秒00をマークしたのは1998年のこと。20世紀につくられた日本記録は、2014年となった現在も破られていない。しかし、今年は日本人にとって“夢の記録”のカウントダウンが始まっている。
昨年4月の織田記念で17歳の桐生祥秀が10秒01(+0.9)というタイムをたたき出して、「9秒台」という言葉が多くのメディアをにぎわせた。1年前のコラムでも書いたが、筆者は日本人の「9秒台」はちょっと遠いなと感じていた。なぜなら、桐生の10秒01は「出てしまった記録」だからだ。
実力以上ともいえる記録が誕生したことで、多くの人間が「現実」を見失っていたと思う。「9秒台」への期待が高まり、桐生本人も困惑していた部分もあっただろう。今季の桐生の“可能性”を語る前に、昨季の「走り」を振り返ってみたい。
机上の計算では9秒台の可能性はあった
実は昨年、桐生が織田記念で見せた走りを「再現」することができれば、夢の記録に近づくことは十分できた。桐生が10秒01で突っ走ったときのグラウンドコンディションは、追い風0.9m。100m走では風速1mで0.1秒変わるといわれており、追い風2.0mまでが公認記録となるため、あと+1.1mの“余力”があったからだ。
しかし、桐生はあのときの走りを求めていなかった。「10秒01の感覚をもう1回とは思っていません。同じ感覚では10秒01止まりですから。それよりも、今の走りを進化させていきたいと思います」と日々、肉体が成長するように、100mレースの走りも小さなリニューアルを繰り返してきた。その結果、昨季は10秒01の後、10秒17(-0.2)が最高で、その次が10秒19(+0.1)と“夢の記録”に近づくことはできなかった。
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