昨季の主要レースを終えた後には、「思ったようなタイムが出ないときもあったので、悩んだ時期もありました。自分でも今季はいっぱい走ったなと思います。あこがれていた大会にもいろいろ出させていただいて、楽しかったのですけど、疲れたなという気持ちもどこかにありました」と、桐生は苦悩を明かした。それでも、「10秒01を出してから、10秒0台が出なかったので、まずは10秒0台をコンスタントに出して、そこで何か加われば『9秒台』という感じにしていきたい」と来季への展望を語っていた。
大学生になった桐生の“可能性”
今年4月から東洋大に進学した桐生は、織田記念(4月29日)の予選で10秒10(+2.0)のセカンドベストをマークするも、右ハムストリングに違和感が出たため、決勝は棄権。続くゴールデングランプリ東京(5月11日)は、強い向かい風が吹いており、9秒台は現実的ではなかった。事実、桐生のタイムは10秒46(-3.5)。9秒79(世界歴代6位タイ)の自己ベストを誇るジャスティン・ガトリン(米国)に0.44秒という大差をつけられた。レース後には「スタートからゴールまで勝てる要素が見当たらない」と話すほどの完敗だった。
桐生の特徴はスタートからトップスピードに乗せるまでが早く、かつその速度を長く維持できることにある。日本陸連が発表したデータによると、10秒01をマークした昨年の織田記念では、40~50mの間で最高速度は「秒速11.65m(時速41.9m)」に到達。そのトップスピードを20m以上もキープしている。
しかし、今季は序盤の加速が不十分で、最高速度に到達するまでに時間がかかるなど、チグハグな走りが続いていた。それでも熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われた関東インカレ(5月17日)でキャリア2度目の10秒0台となる10秒05(+1.6)をマーク。200mのアジア記録保持者、末續慎吾が持つ学生記録に並んだのだ。
「準決勝はスタートがよくありませんでしたが、イメージ的には自分の中にあったのです。決勝はスタートからスムーズに出られて、後半もあまり落ちることなく全体的によかったと思います。記録は特に意識していなかったんですけど、10秒0台はビックリしましたね。記録の出やすい織田記念ではない場所でセカンド記録が出ましたから」
陸上競技のスプリント種目は記録のでやすい競技場が存在する。100mは広島ビッグアーチ、200mは日産スタジアム、400mはエコパスタジアムという具合だ。ちなみに過去に10秒0台の自己ベストをマークした日本人選手は7人いるが、そのうち3人が100mは織田記念が行われる広島ビッグアーチで出した記録。桐生は1発ではなく、2発目の“花火”をほかの競技場で打ち上げたことで、「9秒台」の可能性をグンと高めたのだ。
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