読書家なのに「教養がない人」がやりがちなこと 本を読むときの正しい読み方、読む順番とは

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一方、小説を読む場合もやはり「順番」があります。例えば、ドストエフスキーに興味を持ったからといって、彼の最高傑作である『カラマーゾフの兄弟』にいきなり挑戦するのは無謀というものです。

「話が長いうえに、ストーリーが難解で自分にはムリだ」と途中で挫折してしまい、ドストエフスキーは自分には向いていないと思ってしまいかねません。それは大変残念なことですから、同じドストエフスキーでも、もっとわかりやすく短い小説から入ります。作者の文体に馴染み、そのうえで最終的には大長編に挑戦すればいいのです。

作品をより深く読み込むことができる読む順番

その流れでいえば、太宰治は大変文章が平易でわかりやすいのが特徴です。誰でもいつでも、どの作品からでも入り込める本だと言えるでしょう。それでも時代の変遷にともなって、太宰の作風は変化しています。とくに初期と晩年の作品は、厭世的で破滅願望が強い。代表作『人間失格』がまさにそう。それが太宰のすべてだと思ってしまうと、大変もったいない気がします。

ですから、まずは『富嶽百景』や『黄金風景』あたりから読むのをお勧めします。これらは太宰中期の作品であり、太宰のヒューマニズムに溢れた、明るく若々しく、気品に満ちた作風が特徴です。

『富嶽百景』を例にとると、錯誤と苦悩に満ちた20代の自分と区切りをつけるため、太宰は御坂峠に滞在し自分を見つめ直しながら、結婚と再生への気持ちを固めます。

最初は絵に描いたような富士山の景色が気に入らなかったのですが、宿屋の女将さんと娘さん、来客や訪問者、そして見合いの相手など、さまざまな人々との交流を続けるなかで刻々変わる富士の姿が美しく、頼もしく見えてきます。

『本には読む順番がある』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

麓に降りるときのバスの中で、乗客が富士山の姿に見惚れているとき、1人反対側の崖に咲いている月見草に魅かれる老婆。小説が進んでいないとハッパを掛ける、けなげな宿屋の娘。結婚を決めて麓から峠に戻る際、思わずトンチンカンな質問をする婚約者の女性……。

『富嶽百景』では登場人物が生き生きと描かれ、読者はまるで本当に自分がその人に会ったかのような錯覚に陥ります。そして誰もが可憐で素朴で、美しい。

このあたりの作品には、暗く重苦しい太宰の姿はありません。厭世的な一面が嘘のような人間賛歌と光に満ちています。まずは太宰のそんな一面から入っていただければ、その他の作品も、より深く読み込むことができると思います。

齋藤 孝 明治大学教授

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さいとう たかし / Takashi Saito

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著者、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『読書力』(岩波書店)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『質問力』(筑摩書房)、『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)、『読書する人だけがたどり着ける場所』(SBクリエイティブ)ほか多数。著書発行部数は1000万部を超える。

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