パナソニック「持株会社化」でも見えぬ成長戦略 事業整理を継続し、収益力の回復が最優先に

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絶大な信頼を受けて社長を引き継ぐ楠見氏だが、課題は山積している。焦点の1つは成長領域の確立だ。

パナソニックは現在、2018年に津賀氏が掲げた新経営方針「くらしアップデート」をもとに、家電や住宅設備など幅広い製品群とソフトウェアを組み合わせて提案するなど、単品売り切り型から継続的に課金できるモデルを目指している。アメリカのグーグル元幹部、松岡陽子氏を本社直轄のくらし事業戦略本部長に起用するなど、新たな成長に向けた模索が続いている。

見えない持ち株会社化の狙い

パナソニック全社の改革を続けてきた津賀氏が後に託す楠見氏に与えたのが持ち株会社化という手段だ。11月17日の説明会で津賀氏はそれぞれの事業会社で事業領域を絞り、高い専門性を目指す「専鋭化」で競争力を高めるために「各事業に大胆な権限委譲を行い、自主責任経営を徹底する」と狙いを説明した。

それ以上に事業の取捨選択を行うことが持ち株会社化の目的であるとみられる。今回の体制変更では新たに家電関連、製造・流通現場のソリューション、電子部品、車載電池関連の4分野を「基幹事業」と定め、従来パナソニックが主力事業と位置づけてきた住宅設備機器や車載機器事業などを外した。

楠見氏(右)は津賀氏(左)の掲げた改革の総仕上げを手掛けることになる(撮影:大澤誠)

楠見氏は収益性の低い事業は「他社に比べて後手に回っている」としたうえで、「コアと位置づける事業については『専鋭化』を進め、競合他社が追いつけない強みを持てるようにする」と話す一方、強みを持てない事業については「冷徹および迅速な判断でポートフォリオからは外す」と明言した。各事業会社の収益力を見えやすくした持ち株会社体制で、事業整理を進めてきた津賀改革の総仕上げを手掛ける構えだ。

ただ、収益力を回復させたパナソニックを楠見氏がどのように成長させるかについては未知数だ。津賀氏は「まずは『専鋭化』しないと、グループとしてのシナジーを発揮できない」と語っており、いずれは各事業会社間での連携を図り、新たな成長事業を見出すとみられる。

楠見氏は現状のパナソニックについて「社外に貢献した結果として利益を得ているが、その度合いが少なくなっている」と分析する。100周年を迎えた2018年に、「パナソニックは何の会社か」との問いに対して、津賀氏は「くらしアップデート」という方針を打ち出した。

それは「くらし」が「パナソニックのDNA」(津賀氏)として貢献できる領域との考えからであり、11月17日も「くらしアップデートの認識や方向性に間違いはない」(津賀氏)とした。しかし、「くらしアップデート」という方針以上の具体的な戦略はまだ聞こえてこない。

津賀改革の仕上げとなる「選択と集中」を実現し、成長領域をいかに創り出すのか。100年を超える老舗企業の浮沈は楠見氏の双肩にかかっている。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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