特に50年代のアメ車を使った市内ツアーはアメリカ人観光客を中心にとても人気で、田舎での畑仕事を辞めてタクシーの運転手になった自営業者も多くいる。例えば、コロンビアの『エル・エスペクタドール』紙が昨年6月に報じたところによると、アメ車を使ったタクシー運転手は、1時間あたり30〜50ドル稼げるという。国家公務員の給与が月30ドルなのを考えれば、これがいかにすごい数字かわかるだろう。アメリカからの観光客は高額のチップをくれるということで運転手間でも評判がよかったという。
ところが、昨年6月以降、アメリカ人観光客が激減したことで、タクシー業もこの打撃を受けている(今年はさらに新型コロナウイルスで世界中からの観光客が途切れてしまった)。
2019年6月付の電子紙『ディアリオ・リブレ』に対して、2年前にタバコ工場を辞めてタクシー業を始めたジョエル・モンタン氏は、「クルーズ船が入港していた時は観光客が多く国全体が潤っていた。今はこの広場もは閑散として非常に悲しい」と語った。「トランプはわれわれのビジネスを駄目にさせてしまい、キューバの国も潰した。彼は狂人だ」。
同紙はまた「アメリカ人はチップを多くくれる。だからみんな頑張っていたんだ」と首都ハバナでカフェを経営しているエディー・バスルト氏のコメントも紹介している。
24年前に法制化された法律を発動
ヘルムズ・バートン法(キューバ自由民主連帯法)の適用
この法律は上院議員ジェシー・ヘルムズ氏と下院議員ダン・バートン氏の両名によって法案として作成され、1996年に法制化された。すなわち、1959年のカストロ兄弟によるキューバ革命で当時彼らに押収された企業の賠償を請求することを認めた法律である。
法制化されて以降、アメリカ大統領はその適用をこれまで据え置きにしてきた。特に、オバマ前大統領はキューバとの国交正常化からアメリカ企業によるキューバへの投資を促進させようとする動きの前に、この法律は都合がよくないとして同法律はアンタッチャブルとなっていた。
また、実際にこの訴訟を起こしても、キューバ政府は財政的に厳しい国のため、賠償請求に応えるのはほぼ不可能。それどころか、この法律のせいでアメリカをはじめとする国からのキューバへの投資が減少する可能性があるともされる。
ところが、トランプ政権下の昨年5月、同法律を発動。これに対してキューバが反発しただけでなく、カナダやEU諸国も反対を表明していた。
この法律を持ち出したトランプ大統領の真の狙いは、今後アメリカなど外国からのキューバへの投資を少なくさせようというもので、誰かが訴えを起こしたとしても実を結ぶことはない、と見ているはずである。
トランプ大統領がキューバに厳しい制裁を科す背景には、アメリカにおけるキューバ系移民の存在がある。キューバから逃れてきた移民の中の多くは保守的で共和党支持者が多いとされ、トランプ大統領もこうした層に対するアピールする狙いがあるとされる。
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