トランプが劣勢の「フロリダ」で大逆転した真因 アメリカを南下して見えてきた知られざる現実

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選挙集会に来るのはもともと熱心な支持者なので、集会だけで支持者が増えるわけではない。だが、鼓舞された支持者は家族や知人、近隣に投票を働きかけて票を掘り起こす原動力になる。

コロナ感染から回復したトランプ氏がフロリダ州オーランドで集会を再開した10月12日時点で、「リアル・クリア・ポリティクス」の激戦6州の世論調査平均は4.9ポイント開いていた。だが、集会を重ねるとともに右肩上がりに差を縮め、11月1日には3・1ポイント差までにじり寄った。

それでもこのペースでは逆転には届かないかと思っていたら、2日に2.7ポイント差、投票日の3日には2.3ポイント差まで一気に縮め、猛烈な追い込みを感じさせた。フロリダ州でも、12日時点で3.5ポイントあった差は一時逆転。すぐに再逆転されたものの、2日段階で0.9ポイント差につけていた。

バイデン陣営は「存在感がなかった」

一方、バイデン氏はコロナ禍で活動自粛が続いたうえ、BLMに象徴される黒人問題に視線が向いていたこともあり、フロリダ州での選挙活動は出遅れた。前出のブスタマンテ氏は「トランプ陣営はかなり早い時期からペンス副大統領らがマイアミを何度も訪問し、キューバ系に『大切にされている』と感じさせていた。それに比べて、バイデン陣営はほとんど存在感がなかった」と指摘する。

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フロリダ入りしても、コロナ対策を重視して集会をドライブイン方式で開き、事前に招待した支持者しか会場に入れず、場所を知って応援しようと駆け付けた支持者は門前払いになった。

トランプ氏の集会と比べて、支持者に伝わる熱量の差は明らかで、民主党寄りのプエルトリコ系の間ですら熱が高まらないまま選挙戦が終わった。その結果、オーランド近郊でプエルトリコ系が3人に1人に上るオセオラ郡では、2016年と比べてトランプ氏に11ポイント近く差を縮められた。

アメリカでここ数年、移民取材をしてきた実感として、移民には政治的なインタビューを避けたがる人が少なくない。英語を話さない人も多いうえ、マイノリティとして社会的に嫌がらせを受けやすく、滞在資格に不安を抱える人が知り合いにいる場合もあり、目立つのを避けたがる心理が働きやすいためだ。支持者が集まる選挙集会では口が軽くなっても、普段の街角や投票所などで声をかけてもなかなか答えてくれる人が見つからず、苦労することが多い。

物言わぬ「サイレントマイノリティー」の移民たちを突き動かした危機感。それが世論調査泣かせの逆転劇を生んだと思えてならない。

村山 祐介 ジャーナリスト

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むらやまゆうすけ / Yusuke Murayama

1971年、東京都生まれ。立教大学法学部卒。1995年、三菱商事株式会社入社。2001年朝日新聞社入社。2009年からワシントン特派員として米政権の外交・安全保障、2012年からドバイ支局長として中東情勢を取材し、国内では経済産業省や外務省、首相官邸など政権取材を主に担当した。GLOBE編集部員、東京本社経済部次長(国際経済担当デスク)などを経て20年3月に退社。アメリカに向かう移民の取材で2018年の第34回ATP賞テレビグランプリのドキュメンタリー部門奨励賞、2019年度のボーン・上田記念国際記者賞を受賞した。

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