イッキ見する視聴者のために全13話を一挙配信
『ハウス・オブ・カード』は、ネットフリックスのオリジナルシリーズとして、昨年、アメリカで主要なTV関係の賞レースをにぎわせた。そのことからもクオリティの高さは折り紙付きで、従来の地上波やケーブル局の秀作シリーズに匹敵する高い評価を受けている。
当初、「インターネット配信のドラマはTVドラマなのか、否か」といった論争が起きたことなど、もはやナンセンスとさえ言えるだろう。
実際のところ、アメリカの視聴者にとってドラマをTVで見るか、パソコンやタブレット、スマホで見るかといったことは、もはやさしたる問題ではないのだ。
視聴者が、TVで放送されたドラマを録画でイッキ見、またはオンデマンドで視聴するスタイルが増えていることは、米国ドラマの視聴率のカウント方法の変化を見てもよくわかる。現在はリアルタイムの視聴者数+3日&7日以内のDVR(デジタルビデオレコーダー)再生の数字が含まれるようになった。
だからこそ、ネットフリックスはシーズン1全13話を一挙配信するという方法を取ったのである。これはまさに現代の視聴者のニーズに合ったもので、気がつけば13話、見てしまったという視聴者が続出した。
さらに、ネットフリックスはそれまでのDVDのレンタル・サービスで収集した顧客の視聴動向を徹底的に分析して、どのようなジャンル、どんな主人公がユーザーに求められているか、どれぐらいの視聴者数を見込めるかなどを研究した。こうしたリサーチ結果を反映したうえで、満を持して勝負に出たのが『ハウス・オブ・カード』なのである。
HBOは映画的な作り方を徹底
本作の成功とネットフリックスの台頭は、かつて圧倒的なクオリティで米国ドラマの常識を覆した、高い視聴料を払うペイチャンネルのHBO(『SEX AND THE CITY』『ザ・ソプラノズ』など)が台頭したときのインパクトに似ているかもしれない。
HBOも映画界との強いパイプが最大の売りだが、本作も映画『セブン』のコンビ、デヴィッド・フィンチャーとケヴィン・スペイシーというハリウッドのビッグネームを起用している。エピソード監督にはジョエル・シューマカーなどの大物を起用。シーズン2では、ジョディ・フォスター、本作に出演するロビン・ライトが演出した回もある。
ちなみに、アメリカのTVシリーズでは、ひとりのディレクター、ひとりの脚本家が全話を演出、執筆するということはまずない。映画における作風、ビジョンを決める監督に相当するのはクリエーターかショーランナーである。クリエーターは、企画や原案をディベロップメントさせ、往々にしてパイロット版(シリーズ化された場合は第1話に相当する)の脚本を手掛け、プロデューサーを兼ねることが多い。
プロデューサーも大人数がクレジットされることが普通だが、その中でも実際に現場で指揮を執る製作総指揮(エグゼクティブプロデューサー)のことを、ほかのプロデューサーと区別してショーランナーと呼ぶ。クリエーターがショーランナーとなる場合も多く、彼らが番組のカラーを決めている。『ハウス・オブ・カード』においては、ボー・ウィリモン(脚本・製作総指揮)とデヴィッド・フィンチャー(製作総指揮・エピソード監督)が相当するだろう。
近頃では、HBOで今年1月から放送されて高い評価を得た『True Detective』(2014年~)が、ひとりの監督、ひとりの脚本家が全8話を手掛けるスタイルをとっている。そうすることによってシリーズ全体のカラーや世界観の統一をより密にさせるという、いわば映画的な作り方を徹底させている(過去にも近い例はある)。
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