米国TVの転換期に生まれた記念碑的作品 映画、TV、ネットの特性を生かして大ヒット【後】

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最初から全26話を発注、打ち切りの心配なし

話を『ハウス・オブ・カード』に戻す。本作は出演者も豪華だ。アカデミー賞俳優のケヴィン・スペイシーは、喜々としてクセのある悪役を、ねちっこく、時にユーモアを漂わせながらの怪演で久々に気を吐いている。それに負けず劣らず、鋼のような芯の強さを体現する妻役のロビン・ライトもまた魅力的ですばらしい。

もっとも、10年前ならいざ知らず、今や映画界の才能がTVに本格参入するのはトレンドだ。米国ドラマの質の底上げを牽引してきたHBO、それに追いつけ追い越せと競ってきた有料チャンネルのShowtime(『ナース・ジャッキー』『HOMEAND/ホームランド』)ほか、基本料金で視聴できるケーブルテレビのベーシックチャンネル、AMC(『ブレイキング・バッド』 『マッドメン』)などが“映画並み”の力作を次々と輩出する時代である。

新参者のネットフリックスが成功した理由には、1シーズン一挙配信などの視聴者の動向にマッチさせるといった柔軟性が、制作の過程においてもあったことが挙げられるだろう。

通常、アメリカではパイロット版を作らせて、シリーズ化するか否かを判断するのだが、本作はそうした過程を飛ばして、シーズン1&2の全26話が発注された。
この方法は、視聴率が悪ければすぐに番組が打ち切られる危険性に作り手が悩まされる必要がなく、作り手のクリエーティビティは最大に守られているといっていい。

ちなみに、通常のTV局のように週1でオンエアされた場合、視聴率が振るわず当座の打ち切りは免れても、“死の枠”と呼ばれる金曜に編成されることも珍しくない(金曜の夜は若者を中心に外出する人が多く、送り手にとっては非常に不利)。視聴者の年齢層を高めに設定して、この枠で成功を収めている作品(『ブルーブラッド』)もあるが、編成で移動となった作品は結局は打ち切りとなるのが常である。この視聴率の良しあしによる編成の変更は、シーズンの途中であっても米国TV界では常套手段である(ただし、地上波とケーブル局では事情は異なる部分がある)。

こうした心配と、ネットフリックスの一挙配信は無縁だ。フィンチャー×スペイシーという黄金コンビをネットフリックスが引き込むことができたのは、資金力はもとより、どこよりもクリエーティビティの自由が確保されていたからにほかならない。

ウィリモンは、インタビューで多くのアメリカのTV番組が視聴率至上主義により、生き残りに苦労している中で、「最初から26時間が保証されていたおかげで、役作りや複雑な物語作りに力を注ぐことができた」と語っている。

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