米国TVの転換期に生まれた記念碑的作品 映画、TV、ネットの特性を生かして大ヒット【後】

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一流の映画人がTVドラマのセオリーを踏襲

さて、HBOは映画を撮るように時間と資金をぜいたくに使った製作スタイルが画期的であるとされてきた。比べて本作は、フィンチャーやスペイシーが映画界で培ったものを、ネットフリックスでどう生かせるか、いわば一流の映画人が、ネットフリックスならではのドラマ作りを模索するといった姿勢で臨んだと思われる点がユニークだと筆者はみている。

『ハウス・オブ・カード』はアクションはなくとも、映像のスケール感、クオリティは一級品だ。映像に並々ならぬこだわりを持つフィンチャーらしく、本作には同監督の『ドラゴン・タトゥーの女』などの映画と同じ、次世代デジタルカメラの先駆けである「RED EPIC」を使用している(4Kストリーミングサービスに対応)。照明もすばらしく凝ったもので、映像のクオリティの高さは特筆するべきものがある。

アメリカのTVシリーズは、これまでフィルムでの撮影を基本としてきた。近年はデジタル化が急ピッチで進んでおり、特に製作費がかけられる作品は、大作映画と同じカメラが使われているものもある。

たとえば、映画『ショーシャンクの空に』のフランク・ダラボン監督はフィルム派を公言していたひとり。彼が手掛けた人気ドラマ『ウォーキング・デッド』(2010年~)はフィルム撮影だったが、新作ドラマでデジタルへの移行を試みている。

もっとも、『ウォーキング・デッド』は16ミリフィルムがもたらす効果を最大限に生かした映像が魅力で、あえてフィルムで撮影している作品はほかにもある。この辺の事情は、また別の機会に述べたいと思う。

映画と同じ最先端の技術を使いながら、一方で本作は小難しい政治を題材としながらも、小さな画面でも視聴者を飽きさせない作りとなっている。刺激的なセリフの応酬に、主人公が視聴者に向かって語りかける距離の近さ、主演のスペイシーのいい意味でのわかりやすい、ややもすれば芝居がかった役作り、次の回へと引っ張る連続性の強さは、ストリーミングサービスによって提供されるコンテンツとしての特性を意識したものであろう。つまり、従来のTVドラマのセオリーを踏襲しているのだ。

『ハウス・オブ・カード』は、映画の質とTVシリーズの連続性の醍醐味を兼ね備えつつ、技術的な面と配信スタイルにおいて、これまでにない試みがなされた。その意味で、一大転機を迎えているアメリカのTV界にあって、モニュメント的な作品と言えるかもしれない。

今 祥枝 映画・海外ドラマライター

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いま さちえ / Sachie Ima

東京女子大学文理学部卒。大学在学中、専門学校で映画製作の基礎を学び、卒業後は出版社で雑誌編集業務に携わる。28歳で映画・海外ドラマを専門とする現職に。『BAILAバイラ』で「今ドキ シネマ通」、『日経エンタテインメント!』で「海外ドラマはやめられない!」ほか、女性誌・情報誌・ウェブ等で連載中。著書に『海外ドラマ10年史』がある。

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