「愛の不時着」がなお人々の心を掴み続ける必然 「フロムの名著」が教えてくれる"愛"の本質
――鈴木さんは、100冊以上の訳書を手がけてきた翻訳者としてよく知られた存在です。中でもフロムの『愛するということ』が有名で、今年も新刊を発売されましたが、鈴木さんが翻訳することになったきっかけは?
私は大学・大学院でロシア文学を学んだのですが、その一方でユングやフロイトの精神分析・心理学にも興味を持ち、専門家の先生方に師事しました。その流れで、フロイトの入門書を何冊か執筆しました。また大学院のころから翻訳家としても活動を始め、学んできた分野である心理学関連の本を中心に、これまで多数手がけてきました。
著者のエーリッヒ・フロムは、フロイトの弟子にあたる心理学者ということもあり、私のところへ改訳の依頼が来たのです。実は『愛するということ』はすでに翻訳が出ていて、私も学生時代に読んだことがありました。ただ当時は、読みづらいしよくわからない、という印象でしたね。
愛の定義は大きくは2つある
――翻訳をすることになり、改めてじっくり向き合って、感じたことは?
『愛するということ』の原題は『The Art of Loving』で、日本語だと「愛の技術」です。つまりこの本は、愛とは何かを説いた哲学書ではなく、愛することの技術を教える教科書なんです。
世の中には、「どうしたらモテるか?」「相手にこうしなさい」と書かれた恋愛マニュアルはたくさんありますが、『愛するということ』はまったく違います。ジコチュー(自己中心的)では本当の愛に出合えませんよ、精神的に成熟した人間になりましょう、と自分がどうあるべきかについて書かれているんです。すべてが発見で、まぁ面白かったですね。
――鈴木さんは、フロムによる愛の定義をどう捉えていますか。
まず、私はあくまで翻訳者で、愛についての思想家ではありません。訳者として原文を読み込み、そこから学んだ範囲でしかお話しできませんが、そのうえでお答えします。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら