「愛の不時着」がなお人々の心を掴み続ける必然 「フロムの名著」が教えてくれる"愛"の本質

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日本を代表する翻訳家であり、法政大学名誉教授である鈴木晶さん(撮影:大澤誠)
書店に大量に並ぶ恋愛マニュアルや、愛されるための自分磨きの本。恋愛において成果を出すことを目的とするそれらと一線を画し、「人を愛するために“本質的に必要なこと”とは何か?」を説いているのが、哲学者エーリッヒ・フロムの『愛するということ』だ。1956年の刊行以来、半世紀以上にわたって、世界中で読み継がれてきた。
1991年に刊行された新訳版を手がけたのが、翻訳家であり法政大学名誉教授でもある鈴木晶さん。新型コロナウイルスの脅威が続く中で、感染者や特定の業種・職種が誹謗中傷されるなど、人間関係が殺伐としがちな今、改めて社会に必要なのは「愛」なのではないか。鈴木さんを訪ね、「愛」について聞いてきた。

――鈴木さんは、100冊以上の訳書を手がけてきた翻訳者としてよく知られた存在です。中でもフロムの『愛するということ』が有名で、今年も新刊を発売されましたが、鈴木さんが翻訳することになったきっかけは?

私は大学・大学院でロシア文学を学んだのですが、その一方でユングやフロイトの精神分析・心理学にも興味を持ち、専門家の先生方に師事しました。その流れで、フロイトの入門書を何冊か執筆しました。また大学院のころから翻訳家としても活動を始め、学んできた分野である心理学関連の本を中心に、これまで多数手がけてきました。

著者のエーリッヒ・フロムは、フロイトの弟子にあたる心理学者ということもあり、私のところへ改訳の依頼が来たのです。実は『愛するということ』はすでに翻訳が出ていて、私も学生時代に読んだことがありました。ただ当時は、読みづらいしよくわからない、という印象でしたね。

愛の定義は大きくは2つある

――翻訳をすることになり、改めてじっくり向き合って、感じたことは?

『愛するということ』の原題は『The Art of Loving』で、日本語だと「愛の技術」です。つまりこの本は、愛とは何かを説いた哲学書ではなく、愛することの技術を教える教科書なんです。

世の中には、「どうしたらモテるか?」「相手にこうしなさい」と書かれた恋愛マニュアルはたくさんありますが、『愛するということ』はまったく違います。ジコチュー(自己中心的)では本当の愛に出合えませんよ、精神的に成熟した人間になりましょう、と自分がどうあるべきかについて書かれているんです。すべてが発見で、まぁ面白かったですね。

――鈴木さんは、フロムによる愛の定義をどう捉えていますか。

まず、私はあくまで翻訳者で、愛についての思想家ではありません。訳者として原文を読み込み、そこから学んだ範囲でしかお話しできませんが、そのうえでお答えします。

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