「愛の不時着」がなお人々の心を掴み続ける必然

「フロムの名著」が教えてくれる"愛"の本質

大きくは2つあります。ひとつは、愛にはいろいろな種類があるけれど、すべてつながっているということ。人類愛も、母性愛も自己愛もそうです。ペットや物質への愛情もそう。自分を含め、特定の誰かを愛することは、全人類を愛するということなのです。1人だけを愛し、それ以外の人を憎むというのは、偽物の愛です。

もう1つは生を肯定すること。じっと待っているだけでは、愛は訪れません。自ら行動を起こし、世界に関わる活動をしないといけないのです。つまり愛とは、生を肯定し、全うしようとすることの表れです。極端な話、死んでもいいと考えている人は、生を愛していないことになる。すなわち自分も、誰のことも愛していないため、そこに本当の愛はないのです。

――1つ目は、つまり嫌いな人や苦手な人も同様に愛せよということだと思いますが、ハードルは低くはないとも感じます。

そうだと私も思います。フロイトは、人間の心の底にある衝動には、「生の欲動」と「死の欲動」があると言っています。そしてより深いのは「死の欲動」、つまり攻撃本能のようなものだとしています。自分以外はすべて敵で、生き延びるためなら殺してもいい、という発想ですね。私も実は、フロイトの考えが正しいのではないかと思うんです。

人類・社会を支えているのは愛

新型コロナウイルスが広まり、いろいろなことが起きましたよね。水商売や性産業がたたかれたり、コロナの感染者がばい菌のように扱われたり。ヨーロッパでは、アジア人が殴られるということもありました。

これらは、新しく攻撃本能が芽生えたのではなく、もともとあった差別的な意識が表面化したものだと考えます。社会生活を送るうえで、波風を起こさないために抑制していた感情が、コロナをきっかけにむき出しになったのでしょう。有事の際には、こういった悪い衝動、「死の欲動」のほうが多く表れる印象です。つまり人間は、自分が生きるためなら他人を攻撃してもいい、という意識が根本にあるのだと私は考えています。

――人間が、愛するよりも攻撃本能のほうが強い生き物だとすると、悲しい現実に思えます。

ただその一方で、人類を支えているのは、愛ではないでしょうか。歴史的に見ても、人間は憎しみ合い、殺し合ってきました。いつの時代も愛があったわけではないけれど、人間が滅びずにいるのは、愛がかろうじてつなぎとめてきたからだと思います。

愛、というとピンと来ないかもしれませんが、つまりは相手の立場を考えることです。一部の人を差別し、排除しようとするのではなく、想像力を働かせて、相手の立場に立ってみる。それが愛の始まりです。相手のことを嫌ったら、相手も自分のことを嫌いますよね。憎しみは憎しみを生みますが、愛は愛を生むんです。

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