F・D・ローズヴェルトという極めて異質な大統領 「ニューディール・リベラリズム」とその終焉
特異な時代の大統領「F・D・ローズヴェルト」
佐々木一寿(以下、佐々木):1929年、株価暴落から未曾有の経済恐慌が始まります。
石川敬史(以下、石川):時の大統領は、第31代大統領フーヴァーでした。彼は共和党ですから、基本的にはレッセ・フェール(自由放任主義)の方針を持っていましたが、この経済信条を持つ人々が信じている景気の循環が起こりません。経済の落ち込みが終わる様子がまったく見えず、自立自尊をモットーとするアメリカ国民がとうとう悲鳴を上げ始めます。
こうした中で登場した第32代大統領フランクリン・デラノ・ローズヴェルト(民主党)は、4選という長きにわたって大統領を務めます。第2次大戦中の大統領だったということはありますが、いろいろな意味で、アメリカ史の中では異質な時代だったと私は思います。
まずこの時期、アメリカの人たちは彼ららしくもなく政府に従順になったのです。それから、公共事業にもあまり文句を言わなくなる。不況で仕事がなく、お金もない。文句を言っている場合ではなくなり、貧すれば鈍する、といったような状況でしょうか。
ちなみに少し予備的な話になりますが、ローズヴェルトは下半身が不自由で車いすを常用していました。アメリカの大統領には、建国以来の共通点があり、体が大きいんですね。第2代大統領と第4代大統領は小柄な人でしたが、それはまだジェントルマンの時代であり、ジャクソン以降の大統領は、だいたい大柄です。リンカンも2メートルくらい身長がありました。インテレクチュアルなイメージのオバマも185センチほどあったはずです。トランプもその体格は力士にも劣っていませんね。エネルギッシュで強いイメージが求められていることの証左でしょう。アメリカの指導者はマッチョな男が伝統的に求められてきました。
しかし、ローズヴェルトは車いすの大統領だった。これはいかにアメリカ社会の苦境がそれまでとは異質な「社会科学的な解決」を求めていたかということの表れだと思います。後に「ニューディール・リベラリズム」と呼ばれる時代の到来です。
政党の歴史として重要なのは、この時代に民主党が新たな相貌で勢力を盛り返してきたことです。南北戦争以降は、基本的には共和党支配の時代でした。ところが、この32代大統領以降、第36代大統領リンドン・ジョンソンまでは(第34代大統領のアイゼンハワーを除いて)ずっと民主党が支配しているんです。
何が起こったのかというと、かつて奴隷農園プランターの政党だった民主党が、「都市の労働者、貧民」という次のお客さん(支持者)を見つけたということです。その前の好況の時代から、「新移民」と呼ばれる大量の移民が入ってきていました。ギリシアやポーランドといった、宗教や社会構造、慣習の異なる、そして英語が通じない人たちがアメリカに大量にやってきます。
初期のアメリカに入ってきた人たちは、独立自営農民になるために西部開拓に向かいましたが、これら新移民たちは都市に住んで労働者になりたがりました。そして都市労働者は不況の中で貧窮にあえいでいます。民主党は彼ら都市労働者たちの受け皿になりました。
一方で、共和党はレッセ・フェールですから、もともと北部の自由労働者を擁護する政党だったはずなのですが、この時代の共和党は結局お金持ちのための政党になっています。お金持ちよりも貧民のほうが数は多いわけで、普通選挙ですから、ここからいわゆる「ニューディール・リベラリズム」と呼ばれる民主党支配の時代が続くことになります。