F・D・ローズヴェルトという極めて異質な大統領 「ニューディール・リベラリズム」とその終焉

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佐々木:90年代に入って、アメリカは再び成長軌道を描くようになりました。

石川:ブッシュ(父)の後、第42代大統領ビル・クリントン(民主党、1993年)の時代になります。彼は40代と若く、また南部のアーカンソー州知事を務めていた人でした。この経歴は意外と大きく、ローズ奨学金を得てオックスフォード大学に留学しているという、大統領になるには極めて不利な条件を補いました。マリファナの吸引歴に目を瞑ってでもアメリカ国民が若い清新な人物を大統領に求めたのだと思います。

ただ、クリントン民主党の特徴は、ウォール街とがっちり手を結んだというところにあります。つまり、かつての都市貧困者の政党としての民主党ではなくなっていきました。これは、ニューディール・リベラリズムの間に、かつての貧困階層が経済的に豊かになってきたことに対応したものであると同時に、冷戦の勝利も背景にあると考えられます。

民主党支持基盤の変化

貧困階層も成功すると保守化します。そうなると、民主党としては、貧困者を主なお客さんとする戦略がだんだんと採りづらくなってきます。そこに応えたのが、クリントンだったということです。はっきりしていることは、優勢な経済勢力があらゆる時代を通してやはり勝ってきていて、それは党派を乗り越えながら続いているということです。この観点から、アメリカの2大政党の特徴は流動的なものであり、簡単に色分けはできないということがわかります。

冷戦が終わり、IT革命が起こり、日本経済を打ち破り、とくに争点もない時期、アメリカが唯一の超大国といわれた時代に就任したのが第43代大統領ブッシュ(Jr)となります(2001年)。

このときの大統領選挙は、ブッシュとゴアで争われ「争点なき凡庸な選挙」といわれていました。それゆえ接戦になり、一般投票ではゴアのほうが獲得票は多かったのですが、選挙人制度というアメリカ特有の制度に従ってブッシュが大統領になりました。

これもかなり大事なことなのですが、連邦最高裁まで持ち込まれたのですが、裁判所の見解は、「フロリダ州の判断に任せよう」ということでした。つまり投票の数え方に問題があったとしても、それはフロリダのやり方なのであり尊重されるべきということで、これは州が強いということです。

連邦最高裁の判断は、選挙は建国者が作った各州の選挙人制度においてなされるのであり、それが一般投票の数を反映しているか、していなかというのはさほど重要ではなく、建国の頃の聖典どおり、選挙人制度に基づく、すなわち州のやり方に基づく制度を維持するということで、ブッシュが選出されます。

佐々木:大統領選のような国の一大事で中央より地方を尊重するというのは、日本人には理解しにくいところがあります。

石川:よく、ブッシュが大統領になったことによって「アメリカのデモクラシーは危機を迎えた」という言い方をするリベラル系の論者がいましたけれども、「いや、そうではなくて、まさにこれがアメリカのデモクラシーの強固さだ」と言った研究者も実は少なからずいます。

そして、優しい保守として始まったブッシュ政権ですが、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを受けて、いわゆる「対テロ戦争」に入ります。アル・カイダの拠点とみなしたアフガニスタンを瞬く間に陥落させたブッシュは、戦時の大統領ということも手伝って地滑り的勝利で2期目を迎えますが、国際テロ組織の活動に変化は見られず、その後にイラク戦争で泥沼にはまり、ブッシュ政権は任期半ばの2006年からレームダックに陥ります。レームダックとは、大統領の権力が死に体に陥る状況ですが、連邦行政権力が2年間機能不全に陥ったことは、2008年の金融危機と無関係ではないでしょう。

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