F・D・ローズヴェルトという極めて異質な大統領 「ニューディール・リベラリズム」とその終焉
佐々木:「共和党」の巻き返しがはじまり、「共和党」優位の時代に入っていきますね。
石川:70年代から80年代は、共和党が徐々に巻き返しをはかった時代でした。アメリカの外交官たちとインテリゲンチャ(いわゆるインテリ、知識人)、大学の先生もそうですけれども、60〜70年代当時の世論を牛耳っていた彼らには左派が多かった。そして、とくにベトナム戦争への反省が彼らには顕著でした。
ハリウッド映画も「ベトナムもの」で、なぜあんな愚かな戦争をやったんだろう、ベトナム戦争の心の傷、というテーマを扱った作品が多数作られます。ただこの頃に、「反省疲れ」というのでしょうか、同時にインテリへの反発も起こってきます。
「確かにベトナム戦争は負けたけれども、それはやり方が拙劣だっただけで理念は正しかったんじゃないか」「では無神論の共産主義に妥協するのが正しいことだったのか」という反発です。そのようないわば「括弧つきの本音」が表出してくるのです。
さらに、ニューディール・リベラリズムは、政府の力が強化された、社会福祉の時代です。つまり貧困対策をやっていた時代ですが、このような場合、最も割りを食うのは実は中間層なのですね。大金持ちはもともと困らないし、貧乏人は助かるとして、中間層は奨学金ももらえない、給料は上がらない、でも税金は多く取られる、ということで不満がたまります。
レーガン大統領の登場
それから、ベトナム戦争の傷もそろそろ癒えてくる。そうすると、ベトナム戦争の失敗以降さらに頻繁となっていた、共産主義諸国からの反省を迫る物言いに、アメリカ国内がだんだんうんざりしてくるのです。そのあたりで登場してくるのが、共和党の第40代大統領ロナルド・レーガン(1981年)です。
佐々木:「強いアメリカ」という言葉が印象的でした。
石川:レーガン自身も赤狩りの時代は危ない立場にあったのですが、それを巧みに乗り切ってきました。この点やはり、ただの映画俳優ではないのです。そして「反省疲れ」が象徴的に現れているのがシルベスター・スタローンの「ランボーシリーズ」です。
ベトコン(共産主義の北ベトナム兵)に捕らえられているかつての戦友を救いに行けと言われ、スタローン演じるランボーは、「次は勝てますか」と元上官に問います。とくに『怒りのアフガン』という作品では、ランボーは「こちら、ローン・ウルフ(一匹狼)」というセリフを言うのです。ローン・ウルフというのは、実はロナルド・レーガンのニックネームでもあるのですね。まさに映画の世界が、現実の大統領を讃えている。アメリカの「新保守主義」がこの時代に台頭してきます。
つまり、かつてリベラル=民主党を支持していた大卒層が、この時代になって保守派に、さらには、その理論家に転じていくのです。そして、打ち出されたのが「スターウォーズ計画(宇宙防衛構想)」といったものでした。映画の世界で語られていたことが実際のアメリカの政治で行われるようになる、つまり“ファンタジーランド”が本当に現実の世界にリンクしていくようになるのです。
そして、世界が大きく2つの勢力に分かれるように捉えられていきます。「善」と「悪」の勢力に分かれていて、悪の勢力を打ち破る正義の戦いが求められるようになるのは、長い時間こそかかりましたが必然の流れではありました。「キリスト教国家アメリカ」が歴史的に経験していないものは宗教戦争だったからです。これは三〇年戦争の経験から、ヨーロッパ人がすっかり懲りてしまった「無条件降伏を得るまで戦いをやめない」という正戦論の発想がアメリカには残っていたということです。
レーガン、それから第41代大統領ブッシュ(父)の時代に、共和党のアメリカは、軍拡競争でソ連からギブアップをとる形で冷戦に勝利します。第2次世界大戦において「リベラル・デモクラシーがファシズムに勝利した」のと同様に、またしても「リベラル・デモクラシーが共産主義にも勝利した」と考えたのも当然でしょう。