F・D・ローズヴェルトという極めて異質な大統領 「ニューディール・リベラリズム」とその終焉

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アメリカ国民はブッシュ大統領をもはや支持しなくなっていましたが、それは共和党の中のネオコンの退場にすぎないのであって、広範な保守レジームそのものは健在でした。それゆえ2008年の大統領選挙は、おそらく順当にいけばマケインが次の大統領になるはずだったのでしょうけれども、金融危機が大統領史を加速させました。バラク・オバマがアメリカ史上最初の黒人として第44代大統領になります(2009年)。

オバマ大統領が不人気だった理由

大統領選挙では旋風を起こしたオバマですが、実は在任中の彼の政権は非常に不人気でした。ただオバマを考えるときに1つ重要なのは、彼がジャクソン以降の大統領の中では、圧倒的にインテリ臭が強い人物だったことです。それから、ハワイで生まれてインドネシアで育っていて、お父さんがケニア人(黒人)でお母さんは人種間交流を苦にしない白人女性です。

つまりオバマの属性は、アメリカの反知性主義的文脈が最も嫌う、鼻もちならないマルチカルチュラリスト(多文化主義者)なのですね。いろんな国での生活経験があり、英語以外の言語を解するというのが、反知性主義的文脈では最も嫌われるはずの人物なのです。

確かにオバマは黒人でありマイノリティーですが、彼は実はマイノリティー性を前面に出さなかったというのが非常に重要です。現在アメリカを席巻しているブラック・ライブズ・マターにも終始冷淡でさえありました。その一方で、彼のインテリ性が大統領選挙で弱点にならなかったのは黒人だったからかもしれません。少なくとも大統領の歴史の中では、極端にインテレクチュアルだった人です。

そのため、時間の経過とともに彼の人気は落ちていきました。彼の福祉政策は支持を得られず、外交政策には決め手を欠いたという一般的評価になっています。アメリカ国民は彼が何者であるかがわからなくなっていったのだろうと考えられます。しかし、オバマの政治手法がアメリカの政治的伝統の中では、極めて複雑で繊細なものだったことは、いずれ評価される日が来るでしょう。

そして、次の第45代大統領はドナルド・トランプになるわけです。アメリカ史とオバマ政権におけるアメリカ国民の困惑を踏まえると、トランプはいくつかの理由で、アメリカの大統領になる可能性がゼロではなかった候補だったということが、漠然とではありますが理解されうるのではないでしょうか。

アメリカで大統領になる条件は、実は政治信条の強固さではなく、キャラクターなのです。私の見解をつけ加えると、オバマの不人気は政策手腕の優柔不断さではなかった。本当は彼の政策手腕も政治信条も極めて強固であったが、キャラクターが不明瞭だと感じられたのでしょう。このキャラクターという概念は、大統領になるためには政策以上に重要なのです。

石川 敬史 帝京大学文学部教授

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いしかわ たかふみ / Takafumi Ishikawa

1971 年生まれ。北海道大学大学院法学研究科法学政治学専攻博士課程単位取得退学。博士(法学)。現在、帝京大学文学部史学科教授。アメリカ史、アメリカ政治思想史専攻。著書に『アメリカ連邦政府の思想的基礎――ジョン・アダムズの中央政府論』(渓水社、2008 年)、『岩波講座 政治哲学2 啓蒙・改革・革命』(分担執筆、岩波書店、2014 年)、『教養としての世界史の学び方』(共著、東洋経済新報社、2019年)ほか。

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佐々木 一寿 経済評論家、作家

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ささき かずとし / Kazutoshi Sasaki

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業、大手メディアグループの経済系・報道系記者・編集者、ビジネス・スクール研究員/出版局編集委員、民間企業研究所にて経済学、経営学、社会学、心理学、行動科学の研究に従事。著書に『経済学的にありえない。』(日本経済新聞出版社刊)などがある。

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