「父親は殺人犯」女子高生の娘が生きた壮絶人生 「君たちを守るためにやった」に号泣した理由

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その後、架純さんの中で1つの転機となったのは、「ダルク」との出会いでした。ダルクは薬物依存の人の回復を手助けする民間施設で、全国にグループがあります。大学のとき、彼女が住んでいた家の近くにもたまたまダルクの施設があり、連絡をしてそこを訪れたのです。

「つらかった」と言っていいと思えたダルクとの出会い

「過去と向き合うために行ってみようと思ったんですけれど、でも私が行っていいのかな、とも思いました。私は(薬を)やっていないし、父がやっているところを見たわけでもない。でも電話をしたら『来てみてください』って言われて。2度目に行ったクリスマス会のとき、『みんなの前で、架純の話をしてほしい』って言われて、話をしたんです。

めっちゃ泣きながら話したから、顔も上げられなかったんですけれど、終わってみたら本当にみんな泣いていて。来ている人が本当にみんな、『よく頑張ったね』『話してくれてありがとう』って言ってくれて。自分の気持ちのままでいいんだなって思えて、すごく救われたな、と思ったんです」

救われた、というのは、自分を責めなくていいと思えたということですか? そう私が尋ねると、架純さんは「自分を責め『すぎ』なくていい」と感じたのだと言いました。

「『私よりつらい思いをしている人はもっといっぱいいる、だから、つらいって言っちゃダメだ』って、本当に暗示のように思っていました。でもダルクで話をしたとき、私も『つらかった、しんどい』って言っていいんだって思えて、すごくラクになったんです。いまでもたぶん(我慢するところは)まだあると思うけれど、昔よりは本当にましになったので」

さらに決定的な転機は、最近になって訪れました。いまの夫との出会いと、結婚です。新婚ほやほやなので仕方がありませんが、架純さんがここにきて、急に全開でのろけ出したので、笑ってしまいました。ここまでの話とトーンが違いすぎます。ほっとして、涙さえ出そうです。

「(夫は)めっちゃかっこいいんですよ(笑)。それにすごく優しい。付き合い始めた頃、ちょっとつらいことがあって電話で話したら、彼が泣いてくれたんです。私は泣いていなかったんですけれど、私のことをすごく心配して泣いてくれたとき、『あ、この人とだったらずっと一緒にいられるかもしれない』と思って。

それまで私は、たぶん一生幸せにはなれないと思っていたし、結婚もたぶん無理って思っていた。でも彼と出会って、私は幸せになれるかもしれないと思って。この人と家族になるんだ、この人と生きていけるんだと思ったら、未来に希望がもてるようになってきた。いまの状況は、これまでつらかったことをトントンにしているんだなって思えるんです」

架純さんは、こうしていまやっと、自分の人生を取り戻しつつあります。

この話を読んで、「被害者がいるのに、加害者の家族が幸せになるなんて許せない」と感じる人も、もしかしたらいるのでしょうか。

でも、父親が犯罪者であることについて、架純さんには、何も責任がありません。子どもは、親を選べませんし、架純さんと父親は、別の人間なのです。

当連載では、さまざまな環境で育った子どもの立場の方の話をお聞きしています(これまでの例)。詳細は個別に取材させていただきますので、こちらのフォームよりご連絡ください。
大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』(教育開発研究所)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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