ただやはり、架純さん自身も父親に対しては、複雑な気持ちがあるようです。話を聞いていると、父親を好きだと言いたい気持ちと、それを口にしてはいけない、するべきではないという気持ちが、彼女の中でせめぎ合っているのが感じられます。
昔一緒に住んでいた頃、どんな父親だった? そう尋ねると、「優しい、怖かった」と口にし、いろんな思い出を話してくれました。
料理が上手で、周りの子どもたちがうらやむようなかわいいキャラ弁を作ってくれたこと。小さかった架純さんが食べ物を残したり、片付けができなかったりすると、とても厳しくされこと。弟の出産のため母親が入院していたときは、架純さんの髪を結ってくれていたこと。
「そういう日常的な、超どうでもいいことが、自分の中では『めっちゃ大事だったな』と思えるんです。かわいがってもらったと思うし、大好きだった」
事情を察して電話をくれた幼なじみのお母さん
事件が起きたのは7月、夏休みに入ったばかりの時期でした。高校で部活の練習を終えた架純さんは、先輩とおしゃべりをしており、「じゃあ帰ろうか」と戸を開けると、土砂降りの雨が降っていました。そこで母親に電話をかけ、車で迎えを頼んだのです。
家に着くと母親はすぐ、祖父母が住む裏の家へ。よくあることで、ここまではいつもどおりでした。しかし、弟の様子がいつもと違います。聞くと、この日は父親が祖母の看病をするはずだったのに帰ってこなかったため、代わりに弟が裏の家にいたところ、警察から電話がかかってきたそう。「お父さんに話を聞いている」と告げられたようです。
お父さんが、また何かした――。架純さんはこのとき察しました。
「うち、普段はテレビをつけないんですけれど、たまについていることがあって。夕方6時過ぎ、キー局番組の合間の5分とかで、地方ニュースをやるんです。そこで『〇〇市の民家から、女性の遺体が発見された。一緒にいた男性に事情を聞いている』みたいなことが報道されて。なんか、2人で見入っちゃって。弟と何か話をしたと思うんですけれど。全然覚えていないけど」
殺されてしまったのは、父親が入れ込んでいた、近くの飲食店の女性でした。
その後、電話がかかってきたのか、かけたのかわかりませんが、弟が泣きながら父親に「いつ帰ってくるの? 今日約束してたじゃん、早く帰ってきてよ!」と言っていたことを、架純さんは覚えています。夜になると、おそらく新聞記者でしょうか、家のチャイムが鳴りましたが、「出てはいけない」と感じ、弟と2人でやり過ごしたそう。
夜8時頃、架純さんの携帯に電話をくれたのは、幼なじみのお母さんでした。家族ぐるみで仲良くしており、架純さんの家の事情もよく知っている人です。
彼女もおそらくニュースを見て察したのでしょう。しかし事件のことには何も触れず、「最近物騒だからさ、架純ちゃんたち大丈夫かな?と思って電話しちゃった」と言います。「大丈夫、ありがとね」と答えましたが、架純さんはほっとして泣きそうでした。本当は、どうしようもなく不安だったのです。
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