40歳で顔面マヒになった女性が歩む"大胆人生"

耳下腺がんになった看護師が起業し目指すもの

がんと前向きに付き合えるようになった彼女は、自分も含め、食べこぼしに悩む人たちにも使いやすいスプーンとフォークの製品化に挑もうと決意する。看護師から起業家への転身だ。

軽くてフラットで優しいフォークとスプーン

2020年2月、柴田さんは「猫舌堂」という会社を起業した。関西電力の関連病院に勤務する看護師として、社内起業チャレンジに応募してつかんだチャンスだった。そこで初めて製品化したのが「iisazy(イイサジー)」ブランドのスプーンとフォーク。「いいさじ加減」をもじっている。

「iisazy(イイサジー)」ブランドのスプーンとフォーク(写真:同社HPより)

第1の特長は軽さ。フォークは全長16.6cmで約22g、スプーンは16.9cmで23g。ちなみに筆者の自宅にあるデザート用は20gと22gだが、全長はどちらも14cm。iisazyはデザート用の重さで、それぞれ約3cm長い。

第2に、どちらもかなり幅が狭くてフラット(平ら)だ。柴田さんが話していたように「顔面マヒで口をあまり開けられない人でも、出し入れしやすい」形状。フォークは先端が丸く加工されていて、感覚がない口内に当たっても傷つける心配はない。

筆者が実際に使ってみて気づいた点が2つ。スプーンがフラットだと、ナイフ代わりに肉などを小分けにできる。「さらにフォークを使えば、自分の食べやすいサイズに、より小さくほぐすこともできます」(柴田さん)。

また、フォークは一般用サイズよりも小さくて軽い分、パスタがとても巻き取りやすい。子どもや高齢者にも使いやすいデザインだ。

猫舌堂の顧問で、舌下腺(口内底の粘膜の下にあり、耳下腺と同じ大唾液腺の1つ)がんで舌を全摘した荒井里奈さんが、その使いやすさを説明する。

「以前は、ケーキやパスタを食べるのはもっぱらお箸(はし)でした。フォークで口内を傷つけるのが怖かったからです。でも、外食時にケーキやパスタをお箸で食べていると、周りから奇異なものを見る視線を感じてもいました。このフォークとスプーンなら安心して、両方食べられます」

舌を全摘した荒井さんは、口に入れたものを細かく噛み砕くのが難しい。そのために長いフォークとスプーンを使い、奥歯から前歯までに食べ物を運び、まんべんなく噛むようにしている。どちらも約3センチ長いのはそのためだ。じゅうぶんに噛んだ後は水と一緒にのみ込む。

iisazyのデザインには耳下腺だけでなく、舌下腺がんの人たちが食べるときの難しさや悔しさ、疎外感の解決策が、その細部にまできちんと反映されている。

柴田さんをよく知る浜田さんに、彼女が看護師を辞め、果敢な挑戦を実現した理由を尋ねた。

「柴田さんは明るくて、弾けるときは思いっきり弾けるお茶目な女性。そんな彼女の一番の原動力は、同じがん仲間はもちろん、食べることに悩みを持つ人たちを笑顔にしたい、という気持ちではないでしょうか。皆さんの喜ぶ笑顔を見ることが、柴田さんの幸せでもあるはずですよ」

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